20世紀初頭に誕生した家具でありながら、1世紀を経た現在も製造・販売されているものが数多く見られる。20世紀は科学技術が著しく発達し、新素材の開発や、それまで困難とされていた加工技術が実用化された時代でもあった。
そんな時代に巡り合えたデザイナー達はアイデアに溢れるユニークなデザインを発表し、世界を驚かせた。スチールパイプ製の椅子や、石油系のプラスチックを使った椅子はその典型例であろう。特に20世紀中頃は家具をはじめ、プロダクトデザインの絶頂期を迎えた時期であり、換言すれば名作デザインが出尽くしたかのような時代とも言えるだろう。それは家具に限らず、照明器具やテーブルウェア、カトラリー等の美しい日用品もその頃に集中して生まれている。
それらは20世紀を代表するデザイナーによって手掛けられたものがほとんどである。後に続く若いデザイナーにとってはデザイン界の巨人達が築いた高く厚い壁を超えることは並大抵の努力では叶わなかったように思われる。それは結果的に新しく発表されてもデザイン寿命の短いものが多く、1980年代以降に発表されたものでロングセラーの商品は極めて少ない。知人のデンマークの著名なデザイナーに言わせると、「若者に最も不人気な職種が家具デザイナーだ」とのことであった。
一方、そうしたデザイナーにとっての冬の時代に注目されているのが、過去に生まれ忘れられていた名作の見直しである。かつてロングセラーとして販売されたものの、市場の変化により、製造が中止されていた作品に注目し、復刻作品としてリプロダクトが相次いでいる。それは家具にとどまらず、様々な分野で見られる。
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今回紹介するクリスチャン・ソルマー・ヴェデルはデンマークデザイン界が黄金時代を迎えていた頃に活躍した人物である。鳥をモチーフにした置物やテーブルウェア、幼児のための斬新な家具は20世紀の名作とも呼べる作品群だ。
写真のモデュス(ラテン語で方法・様式)は英語のモジュール(基準・単位・基準寸法)に通じるもので、この家具のシリーズも一定の基準寸法に基づいてデザインされたものだ。こうした家具の寸法の基準(標準)化は1920年代にデンマークのコーア・クリントやドイツのフランツ・シュスターによって考案され、ユニット家具として発表されている。
写真の作品に見られるような直線と曲線の組み合わせ、木とアルミニウムの素材の組み合わせ、さらに厳格な基準寸法から生まれる美しい造形はデンマークのみならず、世界的に高い評価を得た。1961〜80年まで生産されていたが、その後市場から姿を消していた。最近になりデンマークではなく、日本で復刻生産が始まったことは喜ばしいことである。しかしながら、これはデンマーク家具界の様変わりを象徴することでもあり、淋しさを感じるものだ。
■Modus easy chair(モデュスイージーチェア)
メーカー:Søren Willadsen(ソーレン ウィラッドセン)
復刻メーカー:宮崎椅子製作所
サイズ:W710×D640×H660㎜、SH350㎜
素材:木材、レザー 樹種:ビーチ、ホワイトアッシュ、メープル、ブラックチェリー、オーク、ウォールナット
価格:164,000円(税抜)〜269,200円(税抜)
<問い合わせ先>
宮崎椅子製作所
https://www.miyazakiisu.co.jp
TEL.088-641-2185
<販売元>
プールアニック オンラインストア
http://pourannick.shop-pro.jp