家づくりで意外と悩ましいのが、照明です。家を建てた方からは「雰囲気重視で考えたけど、思ったより暗くて不便」「付ける位置がよくなかった」など、思うようにいかなかった声が聞かれることもあります。そこで今回は、インテリアコーディネーターの本間純子さんに、基本的な照明の色の特徴や目の「色覚」の話題を交えながら、リビングの照明計画についてお話いただきました。


照明の光の色は
太陽の光の色を模している?

絵で描かれる太陽は、人によっても世界の地域によっても色が異なります。「赤」で描く人もいれば、「オレンジ」や「黄色」にする人もいます。実際のところ、太陽はどんな色をしているでしょう?

昼間の太陽は白く見え、光は無色のように感じます。ところが夕暮れ時になると太陽は赤みを帯び、光はより赤く感じられます。太陽の光の色を見て「あ、もう日が暮れてきた」なんて話すこと、ありませんか?私の独立間もない頃のオフィスは西側に窓があって、15時頃になると壁紙のサンプルがどれもピンク色に見えて困ったことを思い出します。

日中の太陽光は無色で白い光を放つ
日中の太陽光は無色で白い光を放つ
日が傾くにつれ、太陽光はオレンジ色に
日が傾くにつれ、太陽光はオレンジ色を増す

私たちは太陽が白い光の時間帯に働き、夕暮れ時の赤い光の頃に仕事を終えて休息に入ります。遠い昔から人間は、そのような太陽の光の動きや色とともに生活のリズムをつくってきました。そして、あかりという人工的な光を手に入れた今も、太陽と同じ光の色の影響を受けて暮らしています。

昼間の太陽の色「昼白色」と
夕暮れ時の太陽の色「電球色」

LEDや蛍光灯の光には名前がついていますが、住宅で特によく使われるのが「昼白色」と「電球色」です。

「昼白色」は、昼間の太陽に近い白い光のこと。文字などが見やすく作業しやすいのが特徴で、子ども室や書斎、家事室などで使うのがおすすめです。白い光は文字や画像、視界の見えやすさという機能のほか、仕事や学習に取り組むテンションを上げる働きも担います。

子ども部屋には、勉強に集中しやすい昼白色の照明が適する
子ども部屋には、文字が見やすい昼白色の照明がおすすめ
収納したものがはっきり見える場所にも適している
視認性が良く、収納や水まわりにも適している

一方で夕暮れ時の太陽が放つ光のような赤みのある「電球色」は、休息を促し、落ち着いた雰囲気をつくる光なのでくつろぎを優先するリビングや和室に向いています。食材の赤や緑を美味しく見せる効果もあることから、ダイニングの照明としてもおすすめ。また「電球色」は「良質な睡眠を得るために必要なあかり」と言われているので、寝室も「電球色」のあかりが適しています。

家族団らんの空間を、温かみのある光が優しく包む
家族団らんの空間を、温かみのある光が優しく包む
電球色の照明で落ち着いた雰囲気の寝室
電球色の照明で落ち着いた雰囲気の寝室

加齢とともに私たちの目を覆う
「黄色いフィルター」

ところで、朝、靴下を履こうとしたら紺色と黒色が対になっていてびっくり!という経験はありませんか?実は、食材の赤と緑を鮮やかに見せる「電球色の」あかりは、青系の色を暗く、黄色系の色を白っぽく感じさせる性質があります。そのため、夜、電球色のあかりの下で洗濯物をたたむと、紺色が黒に見えて黒い靴下と組み合わせてしまう、ということが起こりやすいのです。

昼白色のLED電球下で見ると紺と黒の見分けはつきやすい
昼白色のLED電球下で見た紺と黒の靴下
電球色だと、紺が黒く見えてしまう
電球色のLED電球下で見た紺と黒の靴下

さらにもう一つ理由が考えられます。それはあなたの目に「黄色いフィルター」がかかり始めている可能性です。 年齢とともに近くのものにピントが合いにくくなる「老眼」は誰にでも起こる老化現象ですが、実は「色の見え方」も老化します。

私たちの目の水晶体は、赤ちゃんのときには無色透明ですが、成長とともに黄色みを増します。これは有害な光線から網膜を守るための、いわば自前のサングラスのようなもので、年を取るほどに黄色みが濃くなります。私はこの現象を「色覚の黃変化」と呼んでいます。

赤ちゃんのときと大人になってからでは、実は見えている色が異なる

個人差はありますが、私の印象としては40代から日常生活のなかで黃変化の影響を実感し始める人が多いようです。黃変化が進行すると、電球色のあかりの下で色を判別しにくくなると同時に「暗さ」も感じるようになるため、「昼白色」の必要性が高まって白いあかりを希望する人が多くなるのです。

リビングには、
調光・調色機能付きの照明がおすすめ

このようなことから、家づくりでは「あかりの色」を考慮した照明計画が重要です。特にリビングは、家によっては子どもからお年寄りまでさまざまな世代の人が集います。しかも新聞を読んだり、テレビを見たり、お茶を飲んだり、くつろいだりと過ごし方も多目的です。

そこで私がおすすめしているのが、調光・調色機能付きの照明です。リビングのあかりとして使われることが多いLED シーリングライトやダウンライトの調光機能(明るさを調節)と調色機能(光の色を調節)をシーンに応じて使い分けましょう。

リビングのダウンライトは、調光・調色機能付きがおすすめ
リビングのダウンライトは、調光・調色機能付きがおすすめ

例えば、宿題や読書するときには文字がクリアに見えて集中力を高める「昼白色」、くつろいだ気分になりたいコーヒータイムには「電球色」に切り替えます。電球色を暗く感じがちなシニア世代の方は「電球色」と「昼白色」の中間くらいの「温白色」に設定すると、少し明るくなって快適に感じられます。

快適なリビングを演出する
「空間全体のあかり」と「手元のあかり」

最近は広々としたLDKも多く、シーリングライト1台やいくつかのダウンライトだけでは暗く感じられることもあります。その場合は、「空間全体のあかり」と「手元のあかり」を組み合わせて計画するのが効果的です。

シーリングライトやダウンライトのほかに「空間全体のあかり」として人気なのが、間接照明。白い壁や天井に光を当て、その反射光で部屋を明るくみせる照明手法で、空間の上質な雰囲気も演出できます。

ダウンライトに間接照明を組み合わせて、空間の上質さを演出
ダウンライトに間接照明を組み合わせて、空間の上質さを演出
組み込み方次第で、空間によりインパクトのあるデザイン性を持たせることもできる
組み込み方次第で、空間によりインパクトのあるデザイン性を持たせることもできる

これに「手元のあかり」として、フロアスタンドやテーブルライトを組み合わせると、雰囲気が良く機能的でもあるリビングになります。ちなみに「手元のあかり」を「昼白色」にする場合、空間全体のあかりは「温白色」にすると明るさのバランスが良くなります。手元の明るさをしっかり確保することで、部屋全体を必要以上に明るくせずに済み、子どもからシニアまでどの世代のご家族も快適に過ごすことができます。

壁にはブラケットライト、サイドボードの上にはテーブルライト、ソファの横にはフロアスタンドを置いて、リビングを照明で効果的に彩る
壁にはブラケットライト、サイドボードの上にはテーブルライト、ソファの横にはフロアスタンドを置いて、雰囲気がよく機能的でもあるリビング空間に

あかりは、家での快適な暮らしに欠かせないものです。家づくりの際には、今のご家族の年齢やこれから先のことまで考えて、ご自身に合った照明計画を考えたり相談したりしてみてくださいね。