先日の記事「間口が狭くても大丈夫!奥に長い家の上手なつくり方」では、間口の狭さという制約のある土地条件をプランニングで見事に克服。暮らしやすさと開放感を十分に得られた住まいを紹介しました。
ところがリプランで取材していると、土地条件の制約はそこまで厳しくないのにあえて横長のつくりにしている家をときどき見かけます。そこで今回は、それぞれの理由から横長のかたちでプランし、自然や周囲の環境をうまく取り込みながら、希望のライフスタイルを叶えた住まいの実例をいくつか見ていきましょう。
※掲載方法の都合上、図面の縮尺は一定ではありませんので、ご了承ください。
平屋みたいな2階建て。
雪景に架かる橋のような住まい
ニセコの自然豊かな一角に建つYさん宅。コンパクトな1階部分が横長な2階部分を支えている姿はまるで橋のようです。この個性的な形の理由は「雪」。年間積雪量が3メートルを超える豪雪地帯のニセコでは、冬は1階が埋もれてしまうほどの量の雪が降ります。敷地内に高低差があったこともあり、1階は埋もれてもいい浴室などの水まわりにして、2階を主な居住空間としています。
最初から雪を想定した大胆なプランのおかげで、冬になると宙に浮いたはずの2階が雪原に続くような広がりを感じさせる空間に変わります。デッキのあるLDKには天井から床までの大窓。料理をしていても、くつろいでいても目の前の雄大な冬景色を眺められます。宙に浮かせたピロティー部分は、カヌーを置いたり、ハンモックをつるしたりと、有効活用。雪ありきの設計が生み出した個性的なデザインのお住まいです。
まるで壁のよう?に
敷地を南北に仕切る横長の平屋
十勝の自然に魅せられ、札幌から移住されたSさんご夫妻。200坪を超える広い土地を手に入れたご夫妻が建てた住まいは、敷地のほぼ真ん中に位置する細長い平屋でした。住まいを一列に配置することで敷地を南北に切り分け、道路に接する北側は駐車場や薪置き場などのスペースとし、農地に面する南側は菜園や遊び場、日高山脈への眺望を確保するスペースとすることで、広い敷地に2つの顔をつくっています。
中央の玄関を境に、左右に家族が集うリビングと水まわり、お子さんたちとご夫妻との個室&コンパクトな書斎をゾーニング。東西に延びる23mの廊下には南に面した大きな窓が並び、各部屋は廊下に向かってオープンになっているので、どこにいても廊下越しに自然の風景が望め、まるで外と内を結ぶ縁側のような空間です。家の形で敷地を切り分けることで、それぞれの場所に役割を持たせ、外と内がうまくつながるよう工夫された住宅です。
隣地を買ってつくった
広い中庭のある平屋
長年住み慣れた土地での暮らしを満喫していたOさんご夫妻。隣の敷地が空いたということで土地を買い増しし、平屋の住まいに建て替えました。2つの道路に接するOさん宅ですが、新居は南面にガレージがあり、西面は和室、玄関、リビング・ダイニングが細長く並びます。内側は住まいの各場所から出入りできる広いコートを設えた、庭を中心に居住空間が連なるプランになっています。
室内に入ると、北側に配された2つ目のコートに向けて伸びるリビング・ダイニングの大きな掘り炬燵が存在感を放ちます。子世帯3家族に加え、仕事上の仲間や知人の多いOさんのこだわりで、大勢がくつろげる場所を設けたのです。テーブルと椅子の暮らしと比べ目線が低くなるため、開口部はそれに合わせて効果的になるよう計画。植栽を眺めたりするのにも最適な配置です。外からの視線を気にせず、プライベートコートを存分に楽しめる家となりました。
冬になると積雪で2階建てが平屋のようになり、雄大な冬景色を満喫できるニセコの家。横に長い家を壁のように使いプライバシーを確保、家庭菜園や外遊びを楽しむ十勝の平屋。隣地購入で横長になった土地を存分に活用し、広い中庭を設えた住まい。
本記事で紹介した3件の住宅を見ると、風変わりなかたちはただデザインなのではなく、そこに住むご家族が実現したい暮らしや生活動線を考え尽くした結果、導かれたかたちだということがよく分かります。一見住みにくそうでも、実はそれは住まい手にとっては最良のかたち。みなさんも家づくりのときには、家のかたちやデザインに加えて、「これからどんな暮らしがしたいか」に考えを思い巡らせてみてくださいね。
(文/Replan編集部)