変形敷地などで凹凸の多い家や
平屋では暖房費がかさむことも

ここからが今回の本題です。私たちはQ1.0住宅のレベルを評価するに当たり、普通の2階建ての住宅を想定しています。必ずしも総2階とは限らないのですが、あまり凹凸の多い家や平屋の住宅は想定していません。今、省エネ基準では住宅のUA値で、住宅の省エネ性能を判定していますが、このUA値がくせ者なのです。

UA値はおよそ、住宅の床・壁・天井・開口部の断熱性能の平均値※1を表しています。このため、凹凸の多い家や、平屋の家でも、総2階の住宅と断熱仕様が同じなら、UA値は大きくは変わりません。ところが、床面積あたりの外表面積は大幅に増えます。面積が増えればそこから逃げる熱も増えますから、暖房費が大幅に増えることもあるのです。

例えば、ある工務店が建てた2階建てのQ1.0住宅レベル3の家を見学して、気に入りその工務店に住宅を依頼した。しかし、建て主は平屋の家を希望して、さらにその敷地が変形の広い敷地だったため、設計は勢い複雑な形状となり、その結果、暖房エネルギーは省エネ基準住宅より少し良い程度になり、施主にとっては期待外れで、工務店と紛争になったというような例は実際に存在します。これについて分析してみます。

※1:住宅の部位によって断熱材の厚さは変わります。そのため各部位の熱貫流率×部位面積の和を各部位の面積の和で割った数値をUA値と規定しています。

変形平屋についての分析

図2に、今回ご紹介した4間×4間の総2階建て住宅と同じ床面積で、平屋の住宅をイメージしてみました。

図2 4間×4間プロトタイプと同面積の平屋建て住宅
図2 4間×4間プロトタイプと同面積の平屋建て住宅

平屋ですから、住宅の全体床面積は同じですが、1階の面積は2倍になります。ということは、断熱材を施工する床・天井の面積は2倍になるということです。外壁の面積を検討してみます。図に記入してあるグリッドは、長さ1間(1.82m)です。これで、外壁の長さを数えると、図に記入してあるWの数値になります。外壁の高さをおよそ1.5間(2.73m)と想定すると、総2階建て住宅ではWが32ですから、この1.5倍で、外壁の面積は48坪となります。床・天井各16坪と合わせて総外表面積は80坪です。

これに対して平屋の住宅①~⑦、⑨~⑩のように外壁長さはW=24~28と少し小さくなりますが、床・天井の面積が2倍になっていますから、外表面積は大きくなり、熱損失が増えることがおわかりでしょう。ちなみに、図には記入しませんでしたが、W=24で外表面積は100坪、W=26で103坪、W=28で106坪と25~33%ぐらい増えることになります。

したがって、暖房エネルギーを同じにするには、床・壁・天井の断熱材を25~33%厚くして、開口部の熱貫流率を同じくらい小さくすれば良いのです。とはいっても、工事部位面積が増えていますから、この分工事費が上昇し、さらに断熱工事費も増えるのですから、平屋の家はとても贅沢な家だということになるのです。逆にいうと、この工事費増を覚悟すれば平屋の家は同じ省エネ性能の家が建てられることになるのです。

図2の中で、同じ平屋でも、⑪、⑫のような家はコートハウスと呼び、中庭を囲んだ形状で都市型住宅として有名な形です。中庭を植栽にしたり、ウッドデッキにしたりします。この場合、中庭に面した壁は大きな開口部で構成するのが普通です。これが大きな熱損失になり、この開口部は向かいや横の建物の影になり、日射熱は少ししか入りません。この形は要注意です。このあたりをさらに「QPEX」で、暖房エネルギーの違いを計算して、その違いを検討してみます。

変形平屋では、暖房エネルギーがどのくらい増えるか

QPEXには、W=24の④のモデルと、W=28の⑨のモデルを入力します。さらに極端な例として⑫のモデルを、開口部面積が他の例と同じモデルと、中庭に面した壁に大きな開口部を増やしたモデルも入力しました。これらを4間×4間総2階モデルと比較したのが図3です。それぞれ、表1の断熱仕様で入力します。開口部は総2階住宅と同じ大きさの窓が同じ方位の外壁にあると想定しています。住宅の形状や周囲の条件で開口部の設計は大きく変わるはずですが、それでは比較が難しくなるので条件をそろえました。ただ⑫のモデルだけ、中庭に面した壁に大きな窓を増設したわけです。

さらに平屋の住宅では、屋根断熱にしたり、ロフトを設けたりすることが多く、普通の家の天井高2.4mより平均天井高が高くなることが多いと思いますから、平均天井高3.0mのモデルも同じように計算しました。

図3には、計算された暖房灯油消費量と、総2階住宅に比べたその増加率、そして、Q値、UA値の数値を載せました。

図3 4間×4間プロトタイプと平屋建て④⑨⑫の暖房灯油消費量
図3 4間×4間プロトタイプと平屋建て④⑨⑫の暖房灯油消費量

平屋のモデルの灯油消費量の増加率が、L0、L1、L3で異なりますが、これは部位によって断熱厚さが異なるためで、L0では、外表面積の増分のうち、断熱材の厚さが厚い天井の占める割合が大きいため比較的灯油消費量の増加率は小さいのですが、床・壁・天井の断熱厚さに差が少ないL3では、外壁面積の増分と灯油消費量の増分がほぼ等しくなっています。

平均天井高を0.6m高くした影響は意外に大きいようですが、なんと言っても大きいのは、モデル⑫の窓を追加したモデルです。窓を増やすことにより熱損失が大幅に増え、しかもそこから日射熱はほとんど入らないため大幅に灯油消費量が増えています。L1で77%増となり、Q1.0住宅レベル1仕様にもかかわらず、一般的な北方型住宅とほとんど同じになります。L3ではほぼ2倍になり、Q1.0住宅レベル3住宅と同じ仕様にもかかわらず、レベル1にも達していないのです。さらに、UA値があまり変わらないことにも注目してください。

このようなことは、極端に凹凸の多い2~3階建て住宅や、日射のほとんど入らない大きな窓を設置する住宅でも起こります。このような住宅を計画するときは、普通より断熱性能を上げることを十分考えないと、生活してみて意外に暖房費がかかるのがわかるのです。QPEXを使って事前に計算すれば簡単に対策がわかります。事前に十分検討して設計することが重要です。