さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
冬に暖かく、夏に涼しい家を実現するためには、太陽の位置をしっかり理解した敷地と建物の計画が重要です。冬に日射を窓から室内にたっぷりと取り入れて、夏はしっかり防ぐ。今回はこの当たり前のようで意外とできていないエコハウスの大基本について、考えてみることにしましょう。
建築基準法における日当たり確保は不十分
冬でも太陽がしっかり当たるということは、単に暖かいというだけでなく、室内外の衛生や明るさの確保にも非常に重要です。例えば戦後の集合住宅設計をリードした公団住宅では、太陽高度がもっとも低くなる冬至でも4時間の日照を確保するために、建物は南に正対し、各棟の間隔を建物の高さの2倍程度離すように設計されていました(図1)。
戸建て住宅のための第一種・第二種低層住宅専用地域では、図1に示すように「北側斜線」と「日影規制」により、設計する建物が北側に過剰な日影をつくらないように建物の高さを制限しています。ただし、日影規制は高層の建物だけが対象になるので、2階建ての戸建て住宅では北側斜線の規定だけになります。高さ5m以上の部分を制限して北側への日影を減らす規定ですが、後述するように十分な実効性は、実はありません。
主方位が南からふれると冬も夏も損をする
建物への日当たりを考える前に、まわりに邪魔するものがない場合に、各方位の壁面に入射する日射量を見てみましょう。図2に東京と札幌の2地点について、各月に各方位の壁面1㎡にどれだけ日射が当たるかを示しました。
東京の冬1月を見ると、南面では371MJ(メガジュール)ですが、南西面では277MJ、西面では142MJと、西にふれるほど日射量が大きく減少します。冬には窓からたっぷり日射を取り入れることが暖かい家づくりに不可欠ですから、主開口は南にしっかり正対させることが肝心だと分かります。
また東京の夏7月を見ると、南面206MJに対し西面257MJと、西面の方が大きくなります。夏には西面に夕日が当たりやすいため、西にふれた窓は日射遮蔽が難しいのです。
札幌の夏は南面に東京より日が当たる
一方の札幌は、日本海側の気候なので冬に天候が悪いのですが、それでも南面には223MJと、東京の6割程度の日射は当たっています。西面にはわずか89MJなので、北海道こそ主開口を南に向けることが肝心です。また晩夏の9月に南面に当たる日射量は、札幌が264MJで東京の200MJよりかなり大きくなっています。札幌(北緯43.0度)は東京(北緯35.4度)より緯度が高いため太陽高度が低く、夏でも南面に日射が結構当たってしまうのです。高緯度な地域こそ、夏は南面も含めてしっかり日射遮蔽を考えておく必要がありそうです。
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