さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
毎年夏が訪れるたびに、その暑さが年々厳しくなっているように感じられます。残念ながら、気候変動の影響がいよいよリアルに表れてきているのかもしれません。今日建てられた家は以前よりずっと長持ちしますから、2050年どころか2100年まで人が住んでいても不思議ではありません。今回は、家づくりの時にちょっと覚えておきたい、気候変動の影響を加味した未来の気候と災害について考えてみましょう。
2100年の未来 恐怖の天気予報
環境省が作成した、2100年の天気予報と題するウェブ動画が話題になっています(図1)。日本が誇るスーパーコンピューター「地球シミュレーター」の計算結果など、地球温暖化に関する近年の調査研究に基づいた予報ですが、そこから導かれる未来予報は恐るべきものです。
東京の最高気温は実に43.3℃、寒冷なはずの札幌においても40.5℃と、すさまじい暑さになっています。那覇が38.5℃ですから、南国の沖縄より北国の北海道の方が暑いという、とんでもない逆転が起こってしまっています。
最悪のRCP8.5シナリオ 最善のRCP2.6シナリオ
先のショッキングな天気予報は、人類が地球温暖化対策に失敗し、気温が最も上昇してしまった最悪の場合を表しています。気候変動に関する国際的研究機関(IPCC)の第5次評価報告書においては、温暖化ガスの増加が現状ベースで続く最悪シナリオを「RCP8.5」、温暖化ガスを早期にゼロにできた最善シナリオを「RCP2.6」としています(図2)。
最悪シナリオのRCP8.5では、地球全体での温度上昇は最大4.8℃と破滅的で、急激な海面上昇や自然災害の激化が避けられません。前述の恐怖の天気予報はこのシナリオを基にしています。一方、最善シナリオのRCP2.6では温度上昇を1.5℃以内に抑制でき、破滅を回避できるとされています。
最悪シナリオでは寒冷地の温暖化が深刻
最悪のRCP8.5と最善のRCP2.6。この2つのシナリオで、日本の2100年の気候はどのように違うのでしょうか。RCP8.5の結果を図3に、RCP2.6を図4に示しました。
最悪のRCP8.5においては、年平均気温が全国で4.4℃も上昇します。特に北部では、年平均気温の上昇が4.8℃と大きく、日最高気温0℃未満の「真冬日」が39日も減少する一方で、日最高気温が30℃を超える「真夏日」が39日も増加します。温暖化の影響は従来寒冷だった地域で特に厳しいことがわかります。
さらに、上位5%の大雨時による日降水量である「大雨の降水量」も、全国では41%増加、北部では46%増加すると予想されています。最近、極端な大雨による洪水や土砂災害が頻発していますが、それがさらに厳しさを増すと予想されているのです。
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