さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
この連載では、ゼロエネルギー住宅(ZEH)など最近の話題を通して、エネルギー消費について何度か触れてきました。健康・快適な暮らしを末永く実現していくためには、地域の生活全体の省エネルギー化・ゼロエネルギー化が欠かせません。最近公開された最新の調査結果をもとに、住宅のエネルギー消費とコストについて、今一度考えてみましょう。
日本ではじめてのエネルギー調査?
効果的な省エネを行っていくためには、住宅におけるエネルギー消費の実態を正確に把握することが大事です。アメリカやヨーロッパでは、国や州でエネルギー消費実態の調査が継続的に行われています。
一方で日本においては、エネルギー消費の調査そのものがあまり行われてきませんでした。従来のエネルギー統計のほとんどは、電力会社やガス会社が供給しているエネルギーの総量をもとに、家計調査による光熱費の情報をかけあわせて、おおよその値を推定してきたというのが実情です。
今回環境省により、「家庭からの二酸化炭素排出量の推計に係る実態調査」が実施されました(図1)。インターネットモニターと調査員による調査から、2014年10月〜2015年9月の期間のエネルギー消費や光熱費を詳細に把握しました。太陽光発電や自動車のエネルギーを扱っていることも大きな特徴です。暖冷房や給湯の使い方・省エネ行動の実施についても調査されています。実質的に、日本ではじめての大規模エネルギー調査といえるでしょう。
調査結果はインターネットで公開されているので、詳細に興味のある人はぜひ見てみてください。調査のタイトルのとおり、温暖化防止のためにCO2排出量の分析がメインになっています。
今回はこの調査結果の中から、どの用途にどれだけエネルギーが使われているか、そして生活に直結する光熱費がいくらになっているのか。この「エネルギー」と「お金」の数字を主に見ていくことにしましょう。
1次エネルギーと2次エネルギーの違いをもう一度おさらい
はじめにエネルギーの表し方について、1次と2次の違いを整理しておきましょう。簡単にいうと、素の燃料の状態を「1次エネルギー」、下ごしらえされて住宅に供給されたエネルギーを「2次エネルギー」と呼びます。ガスや石油では、1次エネルギーと2次エネルギーは同じとされています。
電気については、1次エネルギーよりも2次エネルギーは小さくなります。発電所で燃やされた燃料の1次エネルギーのうち、電気として2次エネルギーに変わるのは一部だからです。日本では燃料1次エネルギーの37%が電気2次エネルギーになるといわれています。
省エネ基準やゼロエネルギー住宅で計算する際は、すべて1次エネルギー換算で扱うのが一般的になっています。一方で今回の環境省調査も含め、調査の多くは2次エネルギーになっています。そのため今回のエネルギー値は、電力部分のエネルギー消費が小さめに評価されていることに注意が必要です。
この2次エネルギー消費量について、住宅種別・地域別の用途内訳を図2に示しました。値は全て、1住戸が1年間に消費する2次エネルギー(GJ:ギガジュール)です。この図から、どのようなことが分かるのでしょうか?
どの用途がエネルギーを使っている?
まずは、暖冷房や給湯、照明・家電といった用途別に見てみましょう。戸建住宅の全国平均でみると、暖房12.3GJ、冷房0.7GJ、給湯13.3GJ、コンロ2.2GJ、照明・家電13.0GJとなっており、給湯と照明・家電が「2トップ」であることが分かります。この2用途は、集合でも、給湯9.1GJ、照明・家電7.8GJと大きな割合を占めています。
3番手の暖房は、北海道や東北・北陸などの寒冷地の戸建ではさすがに断トツでトップなのですが、その他の地域ではあまり大きくありません。特に集合では全国平均で4.4GJと、戸建の3分の1程度とかなり小さくなっています。
節電において重視されることが多い冷房については、全国平均で戸建0.7GJ、集合0.5GJとなっており、非常に小さい値にとどまっています。従来から言われてきたとおり効果的な省エネのためには、まず「給湯」と「照明・家電」の対策をしっかりすることが肝心なのです。
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