積雪寒冷地での悩みだったスガモリとツララ

北海道や北東北の地域では、冬の間、屋根の軒先にできる大きなツララやスガモリに悩まされてきました。この原因は主として暖房の熱にあります。

図1にそのメカニズムを示します。室内を暖房するとその熱は天井裏も暖めることになります。水蒸気も大量に流れ込み、野地板の下面で大量に結露します。この結露水は天井裏面に落ち、溜まることになります。また、屋根に雪止めを設置すると、暖房している間、屋根上の雪を溶かし水が軒先に流れていきます。軒先には暖房の熱が届かず、外気で冷やされていますから、しずくがツララになるのです。このツララが成長して巨大になり、軒先の上の雪も次第に凍り氷堤ができます。この氷が上から流れてくる融雪水を止めるダムのようになり、屋根鉄板の継ぎ目から漏れてきてしまいます。これがスガモリです。

図1 ツララとスガモリが発生するメカニズム
図1 ツララとスガモリが発生するメカニズム

断熱材を施工するようになって、天井面からの熱は少なくなりましたが、図のように壁の上部が空いているためここから大量の熱が天井裏に逃げる状況は変わりませんでした。こうした現象は、同じ積雪地でも外気温がそれほど低くならない南の方の日本海側の地域ではあまり起きません。

M型無落雪屋根は普及したが、雨漏り事故がとても多い

これを解決するのは簡単で、屋根に積もった雪を滑り落ちるようにすれば良いのです。北海道の矩(かね)勾配の三角屋根住宅はこうして生まれました。しかし、この方法では住宅の2方向に広い堆雪スペースが必要となります。都市部の狭い宅地ではなかなかこのスペースが取れません。雪が軒先から遠くに飛ばないように防雪柵を設けたりして対応は大変です。そこで登場したのがM型無落雪屋根だったのです。

ツララや氷堤ができるのは、暖房の熱が届かない軒先に向かって融雪水が流れていくからで、この水の流れを逆にして、外壁から建物の中心に向かって流れるようにすれば、暖房の熱で水は凍らない訳です。約50年近く前のことです。当初は水が1ヵ所に集まるようにしていましたが、鉄板で屋根を葺きやすいように、横樋方式に変わりました(写真1)。断面形状がMの形になることからM型無落雪屋根と呼ばれています。まさに逆転の発想です。この屋根は、都市部の住宅に急速に普及しました。

写真1 M型無落雪屋根俯瞰
写真1 M型無落雪屋根俯瞰

樋部からの漏水を防ぐために一体成形の大きな樋に、ゴミがたまっても詰まりにくい形状の排水口を設置するなど改良が進みました。屋根勾配は雪が樋の方に徐々に流れ水が漏れにくいギリギリの緩い勾配にしてあります。

実はこれでもこの屋根は雨漏りの事故がとても多いのです。工務店に聞くと、5%ぐらいの住宅で起こっているようです。一番多いのは秋の落ち葉と土埃が長い間に排水口を塞ぎ漏水に至るケースです。樋を定期的に掃除する必要があり、そのための梯子も設置してあるのですが、高齢者には屋根の上に上がるのは困難です。他にも、雪の降り方や雪質と外気温、室内の暖房温度などの関係で排水口が凍り付くこともあるようです。これだけの事故が起こっても、やはり雪処理の問題を解決してくれるので「痛し痒し」ということでしょうか。