着衣の調整で個人差をカバーしよう

いかなる時にも誰にでも、完全に快適な「究極の温熱環境」などというものはない、という事実を知っておくのはとても大切なことです。ですがみんなが快適に暮らすためには、家族がバラバラに部屋に閉じこもって暖房の温度を好き勝手に操作するしかないとなると、ずいぶんと寂しい結論に感じられてしまいますね。

それでもご安心ください。人類にはその長い歴史の中で、建築や設備以外にも素晴らしい発明をしてきたのです。それが「衣類」です。前述のとおり、人体から対流・放射による放熱量は、着衣表面温度と空気・放射温度との温度差で決まります。「着衣量を調整する」ということは結局、着衣表面温度をコントロールして放熱量を加減するということなのです。

図8に、着衣量を変化させた場合の着衣表面温度のサーモ画像を示しました。着衣量が増えるほど表面温度が下がり、軽装になるほど表面温度が上がっていることが一目瞭然です。ダウンジャケットを着ると暖かく、下着姿になると寒いのは、この着衣表面温度による放熱量の差異が原因だったのです。

図8 着衣は放熱量調整の強い味方
図8 着衣は放熱量調整の強い味方
対流と放射による放熱量は着衣の表面温度と周辺の空気・放射温度との「温度差」で決まるため、着衣によって放熱量を操作することが可能です。服を着れば着衣表面温度が下がり温度差が小さくなって放熱量が減り、服を脱げば着衣表面温度が上がり温度差が大きくなって放熱量が増えるのです。

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