低断熱・低気密住宅はエアコン・ストーブで快適にできるのか?
図6に低断熱・低気密住宅において、エアコン・ストーブで暖房をした場合のサーモ画像を示しました。エアコンのほうは熱い空気を吹き出すことで対流分の放熱を減らし、低断熱のために周辺の放射温度は低いままで熱バランスをとっています。ストーブのほうは高温の放射熱で体を加熱することで、空気温度は低いまま熱バランスを成立させています。低断熱・低気密の住宅でも、無理やり空気や放射温度を制御することで、PMVゼロにすることは可能なのです。
それでは、低断熱・低気密の住宅であっても、暖房機器とエネルギーさえ使えば快適にできるのでしょうか。残念ながら、それはできません。前者の「エアコン無理やり暖房」は、空気の温度を非常に高くする必要があるため、温度ムラが大きくなり乾燥感も強くなってしまいます。後者の「ストーブ無理やり暖房」で熱バランスが成立するのはストーブからのある距離の範囲だけであり、少し離れれば放射熱が減少してバランスが崩れ寒さを感じてしまいます。
PMVは万能にあらず
PMVは体全体の熱バランスを示しているものであり、熱的な快適性において非常に重要な指針となるものです。一方で、快適性のすべてを表現したものではないことには注意が必要です。筆者はさまざまな住宅で計測を行いますが、住宅の性能に関係なく、人が滞在している空間のたいがいはPMVゼロになっているのです。本当に質が高い温熱環境であるかを判断するには、PMV以外の情報も必要となるのですが、それはまた後で触れることにしましょう。
全員が快適に感じる温熱環境はない
PMVが与えてくれるもう一つ大事な知見は、すべての人間が快適に感じる温熱環境はない、ということです。前述のとおり、PMVがゼロの完全熱バランスがとれた状態でも、不満者率PPDは5%であってゼロではありません。温熱感には個人差がつきものなのです。
もう一つの要因は、同じ空間にいても行動が違う、つまり活動量=代謝量が違うということです。図7に、空気温度・放射温度がいずれも22℃の環境において、異なる活動をしていて代謝率が異なる3人の熱バランスを示しました。起きて安静にしている真ん中の人は熱バランスが成立して快適に感じていますが、左の寝ている人は活動量=代謝熱が減少して寒さを感じ、右の調理をして活発に動いている人は代謝熱が増加して暑さを感じてしまうのです。
同じ環境にいても、うたた寝すると寒さを感じ、動き回ると暑さを感じることは日々の生活で実感できることです。ファンガー博士はさらに、活動が激しくなると脳内にある「視床下部」が体内温度の上昇を感知して発汗量を増やし蒸発による放熱量を増やすこと、また体内温度の上昇による暑さ感を打ち消すために、より低い皮膚温を求めることも発見しました。このように、活動量が異なると人間の熱感覚は大きく変化するのです。
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