さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
厳しい冬も終わりに近づき、春の気配が感じられる時期になってきました。冬を快適に過ごすことができれば、厳しい寒さも苦になりませんよね。この連載では何度も温熱環境と快適性の関係を取り上げてきましたが、今回はもう少し深く、人間の温熱感を見ていくことにしましょう。
温熱感PMVモデルのおさらいをもう一度
本連載の第8回目「冬のいごこちを考える」ですでに、人間の温熱感は「人体側の2要素」と「周辺環境の4要素」によって決定される、とお話ししました。なぜこの合計6要素で温熱感が決定されるのか、世界でもっとも一般的に使われているPMV/PPDモデルを基に、より深く考えてみましょう。
PMV/PPDモデルは、1967年にデンマークのファンガー教授によって提唱された温熱感の考え方です(図1)。ファンガー博士は多数の被験者実験を基に、人間の体内で発生する「代謝熱量」と人体から放出される「放熱量」が一致した、「熱的平衡」状態が快適性のための必要条件だとしました。PMV/PPDの詳細はなかなかややこしいのですが、快適に感じられる皮膚温度から着衣の表面温度が決定され、周辺環境との温度差から放熱量が決定されます。
不満に感じる人の割合がPPD
図1に示すように、体内で発生する代謝熱量と、さまざまなルートで周辺環境に放出される放熱量合計との間の釣り合いの程度を表した指標が、PMV (Predicted Mean Vote)です。代謝熱量より放熱量が大きいとPMVはマイナスとなり、熱が不足して寒さを感じます。代謝熱量が放熱量より大きいとPMVはプラスとなり、熱が過剰となって暑さを感じます。
ファンガー博士はさらに、PMVの値に応じた不満者率PPDの式を図2のようにつくりました。PMVがゼロの時に不満者率PPDは最小の5%となります。一般にPMVが±0.5の範囲に収まっていれば、不満者率PPDは10%以内となって十分に快適な環境であるといえます。
現場でPMV/PPDを計測するためには、図3に示すようなPMV計を用いるのが一般的です。空気の温度・湿度だけではなく、気流の風速、周辺の放射温度を黒い球体(グローブ球)で計測することで、空気温度・湿度・風速・放射温度といった環境側4要素の条件下で、想定する活動量と着衣量に応じたPMV/PPDを算出できます。
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