最近は、地価や建築費の高騰、ライフスタイルに対する考え方や家族構成の変化などの理由で、家を小さめに建てるケースが増えています。小さな家で快適に暮らすための間取りを考えたときに力を発揮するのが「スキップフロア」です。
そこで今回はそのメリット・デメリットと、実際にスキップフロアを取り入れて豊かな住空間を実現した約21坪〜約28坪の小さな家の間取り5つをご紹介します。
家づくりでよく聞く「スキップフロア」とは?
スキップフロアとは、その名のとおり「跳ねる」ように、床面に段差を設けてリズミカルな空間をつくる設計手法のことです。室内を立体的に使えるスキップフロアは、面積に限りがある小さな家でスペースを確保するのに効果的で、暮らし方に工夫や変化が生まれやすいアイデアです。
スキップフロアのメリット
【スキップフロアのメリット1】
限られた空間を有効活用できる!
1フロアの床面に段差を設けることで、空間を立体的に活用できます。たとえば平屋のプランで中2階をつくると1層分の床面積が増える、というとわかりやすいかと思います。
また、スキップフロアの間取りでは階段によって緩やかに空間を区切れるため、間仕切りや扉を使わずに生活シーンに合わせた居場所をつくれます。
【スキップフロアのメリット2】
上下につながる間取りで、視界の広がりが生まれる!
天井をつくらずに上下の空間をつなげたり、高低差を利用してプランできるため、狭小や変形の敷地でも開放的なプランニングが可能になります。
さらに階段による移動で、空間の見え方にも動きが生まれ、視覚的な広がりとともに暮らしの楽しさもプラスされます。間仕切りが少ない間取りは、家族の気配が伝わりやすいので、安心感もありますね。
【スキップフロアのメリット3】
段差を活用して、収納や座る場所がつくれる!
スキップフロアには、住まいの機能を充実させる側面も。特に家が小さい場合、暮らしに必要なスペースと段差を利用した収納スペースを一気につくれるのは、とても魅力的です。
また、例えばリビングと中二階のフロア同士をつなぐ階段が、大型テレビを鑑賞する格好のベンチシートとして使えるなど、間取りのアイデア次第で暮らしを豊かにできる仕掛けにもなります。
スキップフロアのデメリット
【デメリット1】
温熱環境に配慮したプランと確かな施工力が不可欠
スキップフロアは、一般的な間取りのプランニングとは異なり、複雑に重なる床の階層を考慮したつくりや、室内の温熱環境に配慮した設計が必要です。また、床面積が増えたり、階段の造作が必要だったりと施工の手間も増えます。
スキップフロアを取り入れた間取りでは、適切なプランニングと施工ができるつくり手に依頼することが大事です。設計・施工の依頼先を選ぶ際には、それまでの実績もしっかりチェックしましょう。
【デメリット2】
快適な温熱環境を保つ「冷暖房計画」が必須
前述した「温熱環境に配慮した設計」がなぜ必要なのか?その鍵は、スキップフロアの空間構成です。スキップフロアは、「横幅」ではなく「高さ」を生かす手法。結果、間仕切りなどの壁が少なくなります。
上下にオープンな空間が増えるため、冷暖房による空気の移動=家全体の温熱環境を考えた設計が必須です。また同時に、高い住宅性能を実現し、屋内全体の温度を一定に保てる技術力のある施工業者の選定も重要です。
【デメリット3】
床面積が増える分、コストが高くなる
狭小敷地や変形敷地、高低差のある土地での家づくりで特に効果を発揮するスキップフロアですが「床面積が増えることによるコストアップ」というデメリットがあります。コストアップの原因は主に2つ。ひとつは施工面積が増えた分の「建築費」のアップ。もうひとつは「固定資産税」のアップです。
ただ、スキップフロア以外の部分でコストを調整したり、建築法規を読み解いたりなど経験豊かなつくり手は、施主の負担を軽減するアイデアや工夫にも長けているので、相談して折り合いをつけながら進めるといいでしょう。
小さな家のスキップフロア間取り5実例
①[約21坪]
4層のスキップフロアでつくった
街中のコンパクトハウス
落ち着いた住環境が人気のエリアでご夫妻が見つけたのは、わずか13坪の小さな敷地。その条件の中で心地よく暮らすために設計されたのは、廊下的空間を最小限に抑え、スキップフロアを駆使した広さ約21坪、3階建ての住宅です。
屋内は、建物のほぼ中央に設けた階段によって、ペントハウスを含む4層分がスキップフロアで緩やかに連続。吹き抜けにした2階の中庭(プランタースペース)に落ちる陽射しが、各層にまんべんなく光を届けます。通常の階段の踊り場がそれぞれの居室を兼ねている、アイデアに富んだプランです。
②[約28坪]
開放感いっぱい!
パノラマビューが魅力の家
「家を建てるなら高台に」と決めていたご家族が見つけたのは、前面道路から3.5mも下がる高低差のある土地。しかも平坦な敷地面積は約36坪しかないという制約のなかで、建築家が採用したのがスキップフロアです。
道路に面した高い層を玄関のある2階に。ダイニング・キッチンからリビングへと下るスキップフロアの間取りにすることで、この場所の決め手となった見晴らしの良さをめいっぱい堪能できます。リビングの下には子ども室、さらに階段を数段下がったところに寝室・クローゼットと、主な部屋をすべてスキップフロアで構成。コンパクトで高低差がある敷地の難しさを感じさせないお住まいです。
③[約28坪]
への字形とスキップフロアで実現。
ドラマチックな住空間
ご家族が希望したのは「木」をテーマとした、ゆったりとした暮らしを楽しめる「ほっこりする家」。先の事例と同じく高低差のある敷地に建つ狭小住宅ですが、こちらは建物をへの字形にプランし、スキップフロアを採用することでドラマチックな住空間を実現しました。
玄関から奥へと進んだ先で曲がる動線上でスキップする床面と、敷地の傾斜に沿うように流れる屋根なりの天井が、空間に広がりとリズムを生み、生活動線が劇場さながらのインパクトです。
④[約20坪]
LDKのスキップフロアが
広がりを感じさせる変形地の家
Rさんの家が立っているのは、最大4mの高低差がある変形地。1人暮らしでそれほど広いスペースを必要とせず、建築コストを抑えたいという希望で設計されたのは、2階に暮らしの機能を集約し、上部に広いロフト、1階は寝室とウォークインクローゼットのみという広さ約20坪のコンパクトな住宅でした。
生活の中心となるLDKに、開放感と機能性を持たせるために一役買っているのが、ダイニング・キッチンとリビングを緩やかにゾーニングするスキップフロア。空間のメリハリを生むとともに、高さのある段差は、友人たちが集ったときのベンチ代わりにもなっています。
⑤[約28坪]
各部屋に光が届くよう
スキップフロアの段差を利用
Iさんご夫妻が購入したのは、札幌市内の約32坪の角地でした。建てたのは、約28坪の2階建て。住宅密集地であっても、室内に自然な明るさが得られるよう、周囲の目線を巧みにかわしながら大小の窓を配し、外光や天候の変化によって多様な景色や色合いが感じられる住空間を実現しました。
その効果を増幅しているのが、空間の各所のスキップフロアです。玄関とLDK、LDKとフリースペース、フリースペースと子ども室など、それぞれの場所をつなぐ小さな高低差と吹き抜けの組み合わせが、心地よい暮らしの場をつくり上げています。
たとえ小さな家でも、スキップフロアの取り入れ方次第で、空間を立体的に使って開放的で心地よい家をつくることができます。特に敷地条件に広さや高低差などの制限がある場合は、ご紹介したスキップフロアのプランを参考にしてみてはいかがでしょうか?
(文/Replan編集部)
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