リアルZEHに足りないモノとは?
では、経産省は何を狙っているのでしょう。実はZEH補助金では、前述の家全体に支払われる125万円や150万円とは別の特別枠があります。それは「蓄電池」です。
太陽光発電の普及が進む中、「天気がいいのに発電できない」という新たな問題が発生しています。現在のゼロエネは昼間の余剰電力を全て系統に逆潮流する方式で、これを「ネットZEH」と呼びます。ただしこうしたネットZEHが増えすぎると、電気が余り系統側の電圧が上がりすぎて発電抑制がかかってしまうのです(図5)。蓄電池を設置することで余剰電力を持ち越して夜に自家消費することができ、再生可能電力だけでまかなえる「リアルZEH」が可能になるのです。
家を建てる時にはじめに取り組むべきことは?
蓄電池はPCや携帯などの身近な家電でも重要ですし、今後普及が見込まれる電気自動車でも非常に重要なキーデバイスです。国際的な開発競争が加熱する中、その開発を支援することは日本の産業全体として必要だとは思います。家電エコポイントでテレビ産業が崩壊したような失敗を繰り返すことなく、日本メーカーが真摯に切瑳して国際競争力のある蓄電池をつくって欲しいと一国民として願わずにはいられません。
しかし、家はエネルギーの単なる消費場所ではなく、日々の健康で快適な生活を支える暮らしの場です。エネルギーの側面だけで住宅を議論して良いはずはありません。家を新築するときにしかできないことに優先的に取り組み、質の高い住宅ストックを増やしていくことを忘れてはいけません。
アメリカのZEHは準備上等?
冒頭で述べたように、ZEHは世界中で取り組まれています。住宅のあるべき姿を考える際、アメリカでのZEHが参考になります。図6に、アメリカエネルギー省(DOE)のZEHロゴを示しました。準備を意味する「Ready」の文字が目につきます。実はアメリカのZEHは、外皮と設備で1次エネルギーを半減し、太陽光発電を後付けできる屋根の面積を十分用意しておけば、ゼロエネの準備ができているZEHとして認められるのです。
エネルギー省のWEBサイトには、全米各地のZEH住宅の事例が紹介されていますが、半数以上はこのPV未設置の「ZEH Ready」 です。その代わりに、外皮「Envelope」や空調ダクト「Duct System」はキチンと規定されており、また室内空気質「Indoor Air Quality」の確保も求められるなど、健康で快適な「生活の場」としての側面が重視されています。
こうした建物を新築する時にしっかり設計・施工するのが有利な項目を優先して「良質な住宅ストック」を着実に増やしておき、太陽光発電や蓄電池はコストが低下した後で設置すればよい…という、なかなかに合理的・現実的なアメリカの姿勢が見えてきます。彼の国では住宅は転売するのが当たり前ですから、このストックは社会に循環して有効に活用され続けるわけです。
またアメリカでは日本と同様に家電のエネルギー消費が多いために、冷蔵庫や食器洗浄機などは省エネ機種(エナジースター適合品)を選ぶことがZEH仕様に規定されており、住宅全体の1次エネルギー消費量にも合計されています。また性能表示でも光熱費のコスト削減効果が明示されており、住環境の質だけでなくランニングコストでもユーザーメリットが明確になるように配慮されています。
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