3月18日に弊社から発行した「織田憲嗣の世界の名品・定番品 その愛される理由」という書籍を作っていく過程で、私は「何を足すか」より「何を引くか」に向く意識が強くなりました。

デザインはもちろん、仕事の仕方や日々の暮らしでも、足し算ばかりでは疲れてしまう。むしろ、本当に大事なものを際立たせるには“引き算”が必要に感じます。

デザインにおいて引き算することは、本質を残してそれ以外を合理的に削ぎ落としていくということ。要素を絞ることで、素材そのもののポテンシャルをより引き出すことができます。

しかし、「シンプルすぎて食材を切っただけのような手抜きに思われるから」や「情報が足らないことで、きちんと伝わっているか不安になるから」という日本人的考えで情報を盛り込みすぎると、結果として「何が言いたいのか分からない」デザインになってしまったというものをよく見聞きします。

だからこそ、本当に伝えたいことを的確に届けるために何を伝えるべきかを見極め、必要な情報だけを丁寧に残す。この「引き算」の考え方がとても大切なように思います。

例えば、こちらの2つの腕時計に共通するのは、「最小限の必要な要素だけで成り立っている」という潔さ。時針分針の読みは一般に馴染んでいるからこそ、あえて文字という言語・理解をさせる必要はなく、機能は維持したまま引いたからこその美しさがあると感じます。正確に読めない部分はありますが、個人的にはこれが数分数秒を気にしなくて良いと思える余裕も与えてくれるきっかけにもなりました。

picto(ピクト)/COPENHAGEN(写真左)
回転式の文字盤には数字はなく、時を表す点が置かれていて、シンプルながら遊び心も感じられるデザイン。
こちらは前述した書籍「織田憲嗣の世界の名品・定番品 その愛される理由」でも紹介されています。

TO(ティーオー)/ISSEY MIYAKE(写真右)
「金属の塊から削りだされたようなウオッチ」をコンセプトに吉岡徳仁さんがデザインされた「TO」シリーズ。
文字盤や針の要素をできるだけ排除することで金属の素材感が際立つ静謐なデザイン。

また、デザインに限らず引き算の考えは日々の暮らしでも言えること。予定やタスクを詰め込むのではなく、やらないことを決めてみる。あえて情報を遮断してみる。部屋のインテリアにスペースを作ってみる。そんな小さな“間”を作る引き算が、心に静かな豊かさをもたらしてくれるように思います。

物も情報も溢れている時代だからこそ、ちょっと立ち止まって、あえて「引く」考えを取り入れてみませんか?

制作部Yでした。