炎のゆらめき、身体の芯から暖まる心地よさ。他の暖房機器にはない魅力があって、根強い人気の薪ストーブですが、現代の高断熱・高気密住宅では思わぬトラブルが起こることも。

省エネ基準適合が義務付けられて、住宅の高性能化が広がる今改めて、薪ストーブを安全・快適に使うための注意点を、薪ストーブ専門店・北海道リンクアップの代表、唐牛 宏さんにうかがいました。


押さえておきたい、この記事のポイント!

  • 煙が逆流してしまう原因は「室内の負圧状態」
  • 室内の環境に影響されない「外気導入」で快適なストーブライフを
  • 住宅のスペックを前提にした、適切な機種選びが重要

「高断熱・高気密住宅(高性能住宅)」とは?

今、北海道で建築されている住宅のスタンダードは、断熱材や高性能な窓サッシなどを用い、壁や床の隙間を極力減らして建物の性能を高め、24時間換気システムを備えた「高断熱・高気密住宅(高性能住宅)」です。

昔の家は隙間が多く、外気温の影響をダイレクトに受けていましたが、高断熱・高気密住宅は外気温の影響を受けにくいうえ、暖冷房の熱や冷気が外へ逃げにくいので室温を安定させやすく、省エネ効果も期待できます。

ただ、薪ストーブを使うとなると「高性能住宅だからこそのトラブル」が起こることがあります。

<よくあるトラブル.1> 煙が逆流して、室内が煙臭くなる

「第3種換気システム」の家は、煙の逆流が起こりやすい

昔の家は至るところに隙間があったので、自然に十分な換気がされていました。しかし気密性の高い今の家はその自然換気ができません。ですので室内の空気をきれいに保つために「24時間換気システム」の設置が義務付けられています。

高断熱・高気密住宅では主に「第1種換気」と「第3種換気」のいずれかが採用されますが、薪ストーブの使用時に特に煙の逆流が起こりやすいのは「第3種換気」を採用している住宅です。

室内の「負圧」が、煙が逆流する原因

換気扇から排気する力が自然給気に勝ると、薪ストーブのドラフト(上昇気流)よりも外気が引っ張られる力のほうが強くなり、室内への煙の逆流を引き起こすことがある
換気扇から排気する力が自然給気に勝ると、薪ストーブのドラフト(上昇気流)よりも外気が引っ張られる力のほうが強くなり、室内への煙の逆流を引き起こすことがある

薪ストーブは、本体に取り込んだ新鮮な空気が薪を燃焼させ、その熱で発生するドラフト(上昇気流)が煙突内を通って上へ抜けることで暖房として機能する仕組みです。

そこで問題になるのが「負圧」です。

給気・排気が機械制御の「第1種換気」は内外の圧力のバランスが保ちやすいですが、排気(室内の汚れた空気を外へ出す力)にのみ機械を使う「第3種換気」は、給気(外の新鮮な空気を室内に取り込む力)よりも排気のほうが強く、室内の気圧が外よりも低い「負圧」状態になります。

煙が逆流するのは、「負圧」状態の室内で燃焼中の薪ストーブの扉を開けたときです。薪ストーブの煙突が「換気の給気口」となってダイレクトに外気を引き込み、炉内の煙が室内に漏れ出てしまうのです。

特に「火を入れたばかりの初期段階」が危険

この逆流現象が起こりやすいのが、薪ストーブ本体も煙突も十分に暖まっていない「火を入れたばかりの初期段階」です。

薪ストーブは、煙突が十分な温度に達しないとドラフト(上昇気流)が起こりません。暖まり方が不十分だと、煙突内部の冷たい空気を押し上げる力よりも室内側に空気を引っ張る力(負圧)が勝るので、煙の逆流につながりやすくなります。

火をつけたときに換気量が大きい「キッチンの換気扇」を回していると、そのリスクはより高まります。

<解決策①>
キッチンの換気扇を止め
薪ストーブ近くの窓を少し開ける

煙の逆流は「室内の負圧状態」を解消すれば防げます。

まず逆流対策の一つ目は「薪ストーブに火を入れるときに、キッチンの換気扇を止めて、薪ストーブの近くの窓を少しだけ開ける」こと。窓を開ける=家に隙間をつくることで外気が室内に入って負圧が解消され、煙の排出を促します。

真冬に窓を開けることを躊躇する方もいらっしゃいますが、窓を開けておく時間は火が強くなるまでの10分程度。その間、足元に冷気は感じるかもしれませんが、薪ストーブの出力はとても大きいので、少しの間窓を開けていたからといって家の中が冷えてしまうことはありません。

<解決策②>
「直接外気導入」を取り付ける

逆流対策の二つ目は「直接外気導入」を取り付けること。これはアルミ製のダクトを壁や床下に通して、屋外の空気を直に薪ストーブの中へ取り入れる方式で、室内の負圧の影響をほとんど受けずに薪を燃やすことができます。

薪ストーブには外気導入に対応する機種と対応しない機種があります。当社では安全に快適にお使いいただくために、高性能住宅で薪ストーブを設置するすべてのお客様に外気導入を強く推奨しています。

なお、外気導入は「壁」または「床」に穴を開けるため、あらかじめ設計に組み込んでおく必要があります。高性能住宅での薪ストーブ使用を検討される方はプランニングの早めの段階で、お近くの薪ストーブ店に相談すると良いでしょう。

<よくあるトラブル.2> 家の中が暑くなりすぎる

薪ストーブは、大が小を兼ねない

「薪ストーブを使うと家の中が暑くなりすぎて、窓を開けて使っている」という話をよく耳にします。その大きな原因として、「住宅の性能に対して薪ストーブのサイズが大きすぎる」ことが考えられます。

カタログに載っている暖房面積の目安は「高性能住宅が前提ではない」ので、それを参考にするとオーバースペックになりやすいです。

薪ストーブはその燃焼構造の特性上、大が小を兼ねません。よくご近所からのクレームの元になる「薪の不完全燃焼によるすすや煙、臭いの発生」は、湿った薪を燃やすことのほか、薪ストーブ本体や煙突が十分に熱せられていないことも原因になります。

薪ストーブのサイズが大きいとその分、本体や煙突を十分に高温にするのにたくさんの薪を燃やすことになり、薪ストーブがより長時間にわたって高温の熱を蓄えることになるので、室温はますます上がります。

<解決策>
「家のスペック」に合わせた機種選び

お客様は冬の寒さが心配で、大きな薪ストーブを選びがちです。断熱性能の高くない中古住宅で主暖房用の薪ストーブを後付けするなら、大きめの薪ストーブが適するかもしれませんが、新築で30坪以下の高性能住宅なら、基本的にコンパクトサイズの薪ストーブで十分に暖房効果が得られるでしょう。

昨今は薪ストーブそのものの性能も向上しています。快適にコストパフォーマンス良く使うためには、

  • 住宅性能
  • 暖めたい空間の広さ
  • 間取り

など、家のスペックにふさわしい機種を選ぶことが重要です。最終的には見た目を含め、自分がほれ込んだ薪ストーブを入れるのが正解だとは思いますが、まずはお近くの薪ストーブ専門店に足を運んでプロの話を聞き、実物を見て触れて、後悔のない選択をしていただきたいですね。

2025年度、薪ストーブは 国が認める「省エネ機器」に?

2050年までにカーボンニュートラルの目標を達成するために、2025年度より新築住宅の省エネ化が義務化されます。その流れの中で木質バイオマス燃料を使う薪ストーブも、省エネ機器認定に向けての動きが活発化しています。

認定されると、ガスや電気の高効率給湯器などと同じく補助金の支給対象に。非常に厳しい環境基準をクリアした北米やヨーロッパの薪ストーブは、CO2排出量削減への貢献度が高い暖房機器の一つです。今後の動向にぜひご注目ください。

高性能住宅にフィットする薪ストーブ例

HETA (ヒタ)/ NORN(ノルン) soapstone+oven

モダンな住宅になじむ鋼板性の薪ストーブ。本体を包むソープストーンが質の高いやわらかな熱をゆっくりと放出し、冬の室内をパワフルに暖めます。オーブン機能も人気のポイント。

HETA(ヒタ) / ambition(アンビション)

インテリアも置く場所も選ばない、シンプルなデザインとコンパクトなサイズが特長。適切な距離や条件を整えれば炉壁も炉台も不要な構造なので、設置コストを抑えることもできます。

JØTUL / ヨツール F205

コンパクトな高性能住宅に合う省スペースな次世代型モデル。部屋を素早く暖める対流熱とじっくり蓄熱する輻射熱のハイブリット式で、扉の大きなガラス窓から美しい炎を楽しめます。

DOVRE(ドブレ) / 640WD

クラシカルなデザインが長年にわたって支持されている機種。専門メーカーならではの高品質な鋳物製ながら価格はリーズナブル。高性能で操作性が良いのも人気の理由です。