冬は「ヒートショック」による死亡事故が増える季節

12月になり、ぐっと冷え込みが厳しくなってきましたが、これからの季節に家での生活で特に注意したいのが「ヒートショック」をはじめとする健康リスクです。

近年は夏の酷暑とそれに伴う熱中症が大きく取り上げられますが、実際は「猛暑の夏よりも寒い冬のほうがはるかに健康への影響が大きい」という事実は、あまり知られていません。

一般的に「家の外が危険で、家の中は安全」と思われがちですが、じつは日本における家庭内事故による年間の死亡者数は15,000人以上(2022年)で、交通事故によって亡くなる人の約6倍にのぼります。

家庭内事故は冬に占める割合が高く、中でも「屋内の寒さ」に起因する事故の多くは「ヒートショック」によって引き起こされています。

ヒートショックとは?

リフォームとは

「ヒートショック」とは「急激な温度変化によって体が受けるショック」のことを指します。例えば、冷え込んだ脱衣室で衣服を脱ぐことで体に急激な寒冷ストレスがかかり、血圧の大きな変動によって心臓や脳の付近の血管が詰まったり、破れたり(心筋梗塞や脳梗塞)して健康被害を引き起こします。

また家の中が寒いことの悪影響は、運動不足による慢性疾患や長時間こたつの中に居続けることによるエコノミークラス症候群など、健康に関わるいくつものリスクが指摘されています。

暖かい部屋から寒い部屋へ行くのは心理的におっくうで、それが結果的に体への悪影響になります。つまり「家の中が暖かい」ことが、安全で健康な日常生活を送るうえでとても重要なのです。

「断熱性の高い家」が健康リスクを減らす

古い住宅は暖房している部屋だけが暖かく、廊下や水まわりが凍えるほど寒いですが、高性能住宅はその温度差が少なくなります。北海道の近年の住宅はセントラルヒーティングが一般的で、最近はエアコン一台で効率的に全館空調ができる住宅も増えています。ちなみにイギリスの研究(図1)では、21℃以上が健康な室温の目安とされています。

出典:Replan関西 vol.2 「今、知っておきたい家づくりの新常識」

「室温が21℃以上で、部屋による温度差が少ない」。

これが、健康リスクの軽減に大きな好影響をもたらすと言えるでしょう。

省エネルギー化による二酸化炭素排出量の削減を目的に、近年は国を挙げて住宅の高断熱・高気密化が進めてきましたが、2025年度からはいよいよ、新築住宅で「省エネ基準適合※」が義務づけられます。

つまり、国が定めた最低限の基準である「断熱等性能等級4以上、一次エネルギー消費量等級4以上」の条件を満たさない住宅は建てられない、ということになりますが、「健康」の観点から見ると特に「断熱性」が重要です。

もともと冬の寒さが厳しい北海道では、全国に先んじて「建物の断熱化」が研究されてきた歴史もあって、すでに高性能住宅が一般に普及していますが、本州以南では、まだまだ十分に浸透していない地域も多いのが現状です。

「冬は家の中が寒いもので、多少我慢するのが当たり前」と思う方もいるかもしれませんが、今の技術では「省エネ」と「快適=健康」は両立します。

実際に近畿大学の研究では住まいの高性能化で冬期の室温が上がり、血圧の低下や肩こりの軽減などの健康改善作用があることが示されています(下図参照)。また、高断熱にすることで空間による室温差が少なくなり、ヒートショックを予防する効果も期待できます。

出典:Replan関西 vol.2 「今、知っておきたい家づくりの新常識」

高断熱・高気密住宅は、健康のために重要

高断熱・高気密住宅については、

「冬は良くても、夏は暑くなりすぎる」
「高湿度の日本では結露するから向かない」
「窓を小さくしなくてはいけなくて、暗い家になる」

など、一面的な見方で捉えている住まい手や建築会社がまだまだ多いですが、健康寿命の観点からも、住宅の高性能化は重要です。

高断熱・高気密住宅は、正しい設計・施工と換気計画が大前提で、その前提が守られていれば結露や室内の明るさなどは問題になりません。また断熱性能が高いということは、外と内の熱の移動が少なくなるということ。たしかに夏は一度室内が暑くなると熱が逃げにくい側面はありますが、基本的にエアコンの効きが良くなり省エネ・省コストにつながります。

寒さ厳しい冬がやってきましたが、より少ない暖房エネルギーで、暖かく体への負担を減らす高断熱な住まいは「健康な暮らしの基本」。これから新築やリノベーションを検討する方は、ぜひ建築会社各社の「住宅性能」とその実績にも注目して、設計や施工の依頼先を検討してくださいね。

(文/Replan編集部)