前回の「『住宅のIoT』とは?知っておきたいメリットと注意点」の記事では、住宅のIoTについての基本情報をご紹介しました。

主に大手ハウスメーカーで開発や商品化が進む住まいのIoT化ですが、注文住宅ではどのような可能性があるのでしょうか。今回は、実際に事務所でIoTデバイスを使って操作性や機能を確認し、施主への提案に活用している青森県の建築家、蟻塚 学さんにお話をうかがいました。

蟻塚 学 Aritsuka Manabu
1979年青森県弘前市生まれ。青森県を中心に個人住宅や店舗、クリニックから公共施設まで、規模を問わず幅広い建築の設計を手がけている。(株)蟻塚学建築設計事務所 代表

住宅用IoTデバイスは身近な存在
使える場面も商品の種類も豊富

ーー 蟻塚さんは事務所で実際にIoTデバイスを導入して使っていますが、理解を深めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

蟻塚さん 普段から付き合いのある地元のIT企業の社長さんと、住宅のシステムがだいぶ進化しているとか、今はVRでプレゼンする時代だとか、デジタルの可能性について話したのがきっかけで、自分でもいろいろなIoTデバイスを使ってみようと思いました。

お客様からIoT化を要望されるケースはまだそれほど多くないですが、打ち合わせ時に実物を見せて使い方を説明すると、皆さんけっこう興味を持たれますね。

中古住宅をリノベーションした蟻塚さんの事務所では、住宅関連のIoT技術を実際に体感できる

ーー 注文住宅でよく使われるIoTデバイスには、どのようなものがありますか?

蟻塚さん 分かりやすいものでは、スマホで遠隔コントロールできるスマートロック(玄関ドアの鍵)やスマートライト(照明)あたりでしょうか。家電ではエアコンやロボット掃除機もIoTデバイスです。

またインターネット経由で映像を確認できる監視カメラ、温度計や加湿器など、住まいに気軽に導入できるIoT商品自体はすでにかなり一般化しています。高価ながら安心の品質の日本のメーカー製から、品質はそこそこながら安価な海外製品まで商品バリエーションも豊富で、オンラインショップで簡単に入手できます。

玄関ドアの鍵はスマホで遠隔コントロールできるスマートロックを採用

ーー 設計時に組み込む必要があるデバイスはありますか?

蟻塚さん 照明のON・OFF(タイマー機能含む)をコントロールする「スマートスイッチ」は設計時に考えておく必要がありますね。これはWi-Fiに接続することで、壁のスイッチを使わずにスマホやスマートスピーカーで照明のON・OFFができるデバイスです。

ベッドに入ってから手元のスマホで別室の消灯ができるなど、けっこう便利です。旅行などで長期間家を空けるときは、タイマーで点灯・消灯させれば防犯対策にもなります。

「スマートスイッチ」はスマホをリモコンのように使えて便利
「スマートスイッチ」はスマホをリモコンのように使えて便利

試して実感した、IoTデバイスの有用性

ーー 事務所ではどんなIoTデバイスを実装しているのでしょうか?

蟻塚さん まず、照明用のスイッチを「スマートスイッチ」にしています。スマホの専用アプリで制御できて、点灯・消灯のタイムスケジュールを設定したり、日没に合わせて自動で点灯させたりできます。

エアコンや掃除ロボットのルンバもWi-Fiを介してインターネットにつながっているのでスマホで操作できますし、スマートスピーカーと連動させれば音声でのコントロールも可能です。

玄関の鍵は、普通のサムターン錠にかぶせて使える「スマートロック」を付けています。ドアはデバイスの装着を前提に金物の位置を調整して設計しました。使っているのは単純な「鍵開けロボ」。既存のドアノブの上に被せるように取り付けるだけのシンプルなもので、故障時の交換も簡単です。

事務所のエアコンもwi-fiで制御できる
事務所のエアコンもwi-fiでインターネットにつながっていて、スマホで操作可能

ーー メーカー製の玄関ドアでも最近は電気錠の製品が増えていますが、それとの違いはどんな点ですか?

蟻塚さん 「電気配線が不要」というのが大きな違いでしょうか。メーカー製玄関ドアのタッチキーや指紋認証式の電気錠は、電池式以外は配線工事が必要で、停電時は機能が停止する心配がありますが、この手のスマートロックは電気配線の必要がなく、製作の玄関ドアや既製のマンションドアにも取り付けられます。 

「スマートロック」だとオートロック機能の有無をスマホで設定できますし、誰が何時に出入りしたのか履歴も確認できます。現在私が運営に携わっているゲストハウスでもこの手の「スマートロック」を採用しています。

蟻塚さんの事務所で使用しているスマートロックは、製作した玄関ドアの鍵部分に被せて使えるシンプルなもの
蟻塚さんの事務所で使用しているスマートロックは、製作した玄関ドアの鍵部分に被せて使えるシンプルなもの
スマートフォンで誰が何時に出入りしたのか履歴を確認できる
解錠・施錠はスマホで操作し、アプリを見るとスタッフの出入り時刻も確認できる

ーー IoTデバイスを使ってみて、困ったことや不便はありませんか?

蟻塚さん どれも慣れると便利なものですが、例えば「玄関の鍵を開けよう」というタイミングでスマートロックのアプリのアップデートが始まってしまい、再ログインを求められて慌てた、ということがありましたね…(笑)。

実験的に取り付けた安価なスマートスイッチが突然反応しなくなって、照明がつけられないといったことも。電動ならではの不便は起こり得ます。

ーー アプリのアップデート…!それはIoTならではのハプニング。急いでいたらかなり焦りますね。事務所に来たお客様は、どのような機能に興味を持ちますか?

蟻塚さん 注目度や興味関心が高いのは、やはり「スマートロック」と「スマートスイッチ」ですね。普段使っているものの延長なので、使い方がイメージしやすいようです。

これまでにスマートロックを取り付けたお客様は、だいたいお子さんがいるお宅です。特に共働きのご家庭では、お子さんが何時に帰宅したか把握できるのが安心感につながるようです。

事務所で使っているのは、Amazonで購入した中国製の安価なスマートスイッチ。不具合を起こしてパネルが反応しなくなった玄関のスイッチは、エラー事例としてお客さんに説明するためにあえてむき出しで使い続けているそう(写真右)
事務所で使っているのは、Amazonで購入した中国製の安価なスマートスイッチ。不具合を起こしてパネルが反応しなくなった玄関のスイッチは、エラー事例としてお客さんに説明するためにあえてむき出しで使い続けているそう(写真右)

IoTのある暮らしにおける注意点と
おすすめの取り入れ方

ーー IoTデバイスを導入する際には、どんなことに気をつけるといいでしょうか?

蟻塚さん 家電のようにそれぞれを単体で使う分には、個人情報の漏えいなどのセキュリティー面は問題ないかと思います。ただ、スマートホームのようにすべてをひとつのシステムで統括する場合は家の設備機器が常にインターネットに接続される状態になるので、たった1回の不正アクセスですべてのIoTデバイスが影響を受ける可能性を意識して対策を講じる必要があるでしょう。

また「Wi-Fi経由だと停電時にスマートロックが機能しないのでは?」と心配かもしれませんが、当事務所の場合は電池式でBluetooth対応のため、停電しても作動します。ただ締め出される可能性もゼロではないので、いずれにしても「スマートロック」を採用する場合は、保険として手動用の鍵を外に持っておくと安心です。

保険として手動用の鍵を外に持っておくと安心
保険として手動用の鍵を外に持っておくと安心

ーー 蟻塚さんがおすすめするIoTデバイスの取り入れ方、付き合い方を教えてください。

蟻塚さん 一番可能性を感じているのは照明です。例えば、アンティークのスタンドライトをIoT対応の電球に交換したり、コンセント側をIoT対応コンセントに変えることで、アンティークとしての魅力を保ったまま、簡単に日常使いできるようになります

また、リフォームやリノベーションでも照明のIoT化は可能です。「スマートスイッチ」は、通常スイッチパネル自体に電源を供給するための電気工事が必要ですが、最近は国内大手メーカーから工事不要のリフォーム向け製品も販売されています。

間接照明もスマートスイッチで調光・調色ができる
間接照明もスマートスイッチで調光・調色ができる

予算との兼ね合いもありますが、事務所で実装してみた経験から、住宅で使うなら価格が少し高くても信頼と実績の国内メーカー品をお使いいただくのが、後々心配が少なくて賢明かと思います。

とはいえスイッチは数が必要なので、少しでも費用を抑えたい方はリビング、寝室、玄関など、スイッチの使用頻度が高い場所に絞って国内メーカー品を設置するといいでしょう。

ーー 最後に、住宅のIoTについて、今、蟻塚さんが思うところを教えてください。

蟻塚さん 住まいのIoT化はスマホの使用が前提ですが、高齢者にこそ便利で有用だと感じます。家電はもちろん、事務所で実装している玄関ドアの鍵や照明・スイッチは特に、注文住宅でも採用しやすい設備です。

最近はスマホを使う高齢者もだいぶ増えていますし、IoT技術はこれからますますスタンダードな機能として導入が進み、住宅や私たちの暮らしに組み込まれていくのではないでしょうか。

取材協力 (株)蟻塚学建築設計事務所


暮らしの中の要・不要を見極めながら
つながる時代の安心と快適を手に入れる

インターネットが暮らしに欠かせないものとなった現在、住宅もまた新たなフェーズに向かって進化しています。

大手ハウスメーカーの中には、家電や住宅設備の自動制御、監視や見守り、遠隔コミュニケーションのほか、HEMS(家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム)やオンライン診療、ヘルスケアサービスなどが一つのアプリで利用できるシステムを標準装備した住宅の提案を始めた企業も。

ただ常に、便利と不便、安心と不安は表裏一体のもの。良かれと思って選んだ機能が、ストレスの根源になることもあります。選択の基準となるのは自身の暮らし方です。自分や家族にとって本当に必要か否かを冷静に判断し、つながる時代の安心と快適を手に入れたいところです。

(文/Replan編集部)