はじめに
今回紹介するのは、私が室蘭工業大学に在籍していた時代の最後の実験住宅です。連載第5回で紹介したシンプルな細長総2階建て住宅の実例になりますが、かなり大きな家で3間×8.5間で51坪もあります。この住宅が細長になったのは、敷地が東西に長い変形敷地だったことによります。南東向きの敷地で、南西の隣家から離して日照を確保するためです(図-1)。
ダンス教室を経営する若い夫婦と2人の父、子ども2人(将来計画)という特殊な家族構成で、サニタリーを2ヵ所、ダンスの衣装のための広いクローゼットなどが必要ということから、今の大きさになりました。できたプランは、プロトタイプとして使える汎用性に富んだものになったような気がします。3世代がライフスタイルに合わせて100年使えるプランです。
ローコストなQ1.0住宅の計画
住宅の規模と予算の関係上、この住宅の設計は当初から総2階建てで、フラットルーフ(陸屋根)の四角い箱状に納めることを前提としました。勾配屋根よりも安くなります。室蘭の八丁平は、高台にあり室蘭で一番風の強い場所なので、車庫や風除室をつくりたかったのですが、予算の関係で見送りました。しかし、車が4台もあり2台分のカーポートとアプローチを屋根付きとして、真四角な住宅と合わせてデザインを整えました。
実験住宅としての役割
私たちの研究室で住宅の設計を手がけるときは、必ず何らかの実験的な試みを盛り込んできました。この30年以上の間に50棟ぐらいの住宅をつくりながら、これまでの高断熱住宅のプランニング、躯体や断熱工法、外装工法、暖房給湯設備、換気設備などを開発してきたのです。
10年程前からQ1.0住宅の建設を始め、その中でいくつかの試みたかった工法の実現が、今回の住宅のテーマでした。新しいことを試みるといろいろとお金がかかるのですが、関係する建材メーカーの協力で、施主には迷惑がかからないように実施できたと思います。