さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
私たちのミライの家、NEXTハウス。今回からはその具体的な技術について考えていきます。1つめの技術は「窓」について。その歴史や変遷に触れつつ、解析したいと思います。
住まいの最も特徴的なパーツ
窓は現在の建築を決定づける最も大きな要素でしょう。古代ローマ以前からガラスそのものはつくられていましたが、溶かしたガラスを手作業で伸ばすため、大きく平らな板はつくれません。昔の窓が小さなガラス片を金属でつないでいるのは、このためです(図1)。
ヨーロッパでは古くからガラス工業が発達していました。フランスのルイ14世は熱心にガラス産業を振興し、1665年に王立鏡面ガラス製作所として設立されたサンゴバン(Saint-Gobain)は、現在でも世界的ガラス企業として続いています。ヴェルサイユ宮殿の室内を明るく照らす大きなガラスと鏡は、当時の最先端技術としてフランスの威容を世界に誇示するものでした。
19世紀の産業革命を経て、大量にエネルギーを利用する機械化が進むと、大判のガラスが入手しやすくなりました。ガラスがなかった時代の建築の中はとても暗いものでしたが、窓ガラスの普及により視線を通し光を取り入れながらも、音や熱・空気の行き来を制御できるようになったのです。
日本においても明治時代になると、紙をガラスに置き換えたガラス障子が登場するようになりました(図2)。当時はまだ電気照明は普及していなかったので、明るさが特に必要な写真館や歯医者では天井一杯までガラス窓を張り巡らせていました(図3)。こうしたモダンな建築はガラスとともに登場したのです。
窓に求められる機能・性能
窓は建築の中と外をつなぐインターフェースとして、建築のあらゆるパーツの中でも特に多くの機能を有しています。「しっかり開いてしっかり閉じる」ということは、言うほど簡単ではないのです。開け閉めの利便性だけでなく、閉めた時には雨・風だけでなく音もしっかり遮蔽できなければなりません。最近では、熱ロスや漏気・結露まで防ぐ必要が出ているのです(図4)。
前述のとおり、日本の住宅の窓は紙障子をガラス障子に置き換えることから始まっています。そのため、「木枠」と「薄い1枚ガラス」の「引き違い」窓が長らく無難なものとして標準的に使われてきました。現在でも既存の家にはそういった窓が多く見られますが、すぐに建て付けが悪くなり開きづらくなってしまいますし、窓としても隙間が多く十分な性能があるとはいえない代物でした。
大歓迎されたアルミサッシ。その弱点は熱伝導
その後、高度経済成長が進む中で、大量に生産されるアルミを活用したアルミサッシが登場してきました。アルミは強度があり加工精度も高いために、滑らかな開け閉めを可能にしつつ、気密や水密・耐風・防火といった性能を高次元で達成できました。なにより錆びないために、メンテナンスフリーであったことは大きな魅力でした。こうした「夢」のアルミサッシが爆発的に普及したのは当然といえるでしょう。
しかし、アルミは素晴らしい素材なのですが一つだけ弱点がありました。極端に熱を伝えやすいのです。熱伝導率で比較すると、木や樹脂に比べて1000倍以上も熱を伝えてしまいます(図5)。建物の断熱が大事だという認識が広まる中、ガラスは従来の1枚ガラスから2枚のペアガラスに変わっていきます。ガラスの断熱性がよくなる中で、アルミサッシの熱的な弱点が顕わになってきたのです(図6)。
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