古代エジプトでは第1王朝時代(紀元前3100年頃)には雄牛の脚を模した腰掛けが使われていた。それらは象牙や木製のもので、ロンドン大学のピートリー博物館やニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている。また、背もたれ付きのものは第2王朝のセエフネルの石碑に見られる。背もたれに肘が付いた椅子の現存する最古のものとしては、第4王朝の王妃ヘテプヘレスの椅子(紀元前2723年頃)がある。この椅子が発見された際には、肘掛け椅子2脚に加え、ベッド、天蓋一式、高台、化粧箱などがあった。
また、1922年、イギリスのハワード・カーター達によって発掘されたツタンカーメン王(紀元前1361年〜1357年頃)の墳墓からは黄金で飾られた玉座のほか、椅子、腰掛け、テーブル、三つ折りベッド、櫃(ひつ/蓋付きの箱)、物を置くためのスタンド、燭台など、家具類だけでも50数点が発見され、世界的なニュースとなった。それらの家具類の多くは、現在私達が使用している一般的な家具と基本的にはほとんど同様の構造や機能であり、3000年以上前の時代に家具の完成形を見ることができる。
ツタンカーメン王の発掘品の中に見られる腰掛けには幾つかのタイプが存在するが、中でもX型に交差する折り畳み式の腰掛けはドイツのスタットリッヒ博物館に所蔵されており、後年、デンマークの王立芸術アカデミーの教授を務めたオーレ・ヴァンシャーにより復元・商品化されたことでも知られるものだ。古代エジプトの家具やアフリカのプリミティブな腰掛けは、ハワード・カーターの発見により、ヨーロッパの家具デザイナー達にも驚きを持って迎えられ、アール・デコ様式の家具にデザインされ、多くのデザイナー達が発表したのである。
X型の脚は古代エジプトでは折り畳み式となっていたのに対して、アール・デコの作家達、例えばミース・ファン・デル・ローエや、ジャック=エミール・リュールマン、ジャン=ミシェル・フランクらのデザインしたX型の腰掛けでは固定された構造となっていた。
一方、北欧のデザイナーが手がけたX型の脚は、ほとんど例外なく折り畳み式の構造となっていることは極めて興味深いことだ。
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今回紹介するモーエンス・ラッセンのエジプシャンテーブルは、1922年ツタンカーメン王の遺物の大発見の年にデザインされている。これは当時の新聞等の報道により、X型の脚部のデザインを考案したのかもしれない。作品名からも古代エジプト家具デザインがそのルーツであることは明らかである。
このエジプシャンテーブルは、数年前までデンマーク最古の家具メーカー、コペンハーゲンのルドルフ・ラスムッセン社で製作されたものである。しかし、同社はYチェアで有名なカール・ハンセン&サン社に買収され、その長い歴史に幕を閉じた。ルドルフ・ラスムッセン社の立派なショールームの入り口を入ると、大型の革装丁の芳名録があった。そのページをめくるとアメリカの歴代の大統領や世界各国の元首の名前があり、日本の総理大臣の名前も見られ、私などがサインをするのがはばかられた。
北欧では歴史ある有名企業が吸収合併されることが頻繁に起きている。長い歴史の中で培われたものづくりの精神は、いとも簡単に失われていく現実がある。そうした事態を防ぐのは私達が良い物を買い支えていくことではないだろうか。
■ML10097 EGYPTIAN TABLE
ブランド:CARL HANSEN & SØN(カール・ハンセン&サン)
サイズ:Ø85㎝/Ø100㎝、H54㎝
素材:オーク材/ウォールナット材(オイル仕上げ)、真鍮
価格:421,300円〜518,100円(税込)
<問い合わせ先>
MAARKET(マーケット)
https://maarket.jp/view/item/000000002000