「食洗機(食器洗い乾燥機)」は今やドラム式洗濯機とロボット掃除機に並んで新・三種の神器の一つと言われるほど、ユーザーニーズの高い住宅設備(家電)です。実際、リプランの取材先でお話を聞いても、お施主さんの満足度の高さがうかがえます。
一方でサイズや使い勝手、メンテナンス方法など、機器の選択にあたって知っておきたいことも。そこで今回はインテリアコーディネーターの本間純子さんに、ビルトイン食洗機選びの参考にしたい基本を教えていただきます。
食事をつくって食べると、必ず食器や道具類を洗う作業が必要になります。楽しい食事の後、「この食器を誰かが洗ってくれたら…」と思う方は少なくないはず。そんな願いを叶えてくれるのが、食洗機(食器洗い乾燥機)です。共働き世帯の増加が後押ししていることもあって、家の設備としてスタンダートになりつつある食洗機の最新事情を見てみましょう。
食洗機とは?
食洗機は、食器や調理器具などを洗浄するための家庭用の電化製品です。水流や洗剤を使って食器を洗浄し、乾燥させる機能が備わっていて、通常はキッチンの流し台や調理スペースの近くに設置されます。タイプとしては、キッチンに組み込むビルトインタイプと、後付けが可能な卓上タイプがあります。
卓上タイプの食洗機
キッチンカウンターの上に置いて使用します。調理スペースやシンク脇の小スペースに置けるコンパクトなものもあります。設置の際は
- 扉の開く方向
- 全開した時の最大寸法
- 洗いカゴの引き出し寸法
などに注意しましょう。
「扉が完全に開かない」「洗いカゴに食器をセットしにくい」などのトラブルが起きないよう、できれば家電量販店などで実機で確認したいところです。
卓上タイプの場合、食器洗浄後の排水はシンクに流します。給水はキッチンの水栓から分岐するタイプと、タンクに水を入れて使用するタイプがあります。タンク式は分岐水栓を付けられない賃貸住宅でも使用可能です。
ビルトインタイプの食洗機
キッチンセットの中に組み込むタイプです。幅45㎝または幅60㎝のフロアキャビネットが入るスペースに設置します。使い勝手や給水・排水の設備面から、シンクの左右どちらかに設置するのが一般的です。
食洗機を使うメリット
メリット1:高温のお湯の圧力による「汚れ落ちの良さ」
手洗いだと、スポンジに付けた食器用洗剤で汚れをこすり落とし、ぬるめのお湯ですすぎますが、食洗機は食洗機専用の洗剤と高温のお湯の圧力で汚れを落とします。人の手では扱えない高温のお湯と、手荒れを気にせず使える専用洗剤の合わせ技による汚れ落ちの良さは、食洗機を使うメリットです。
メリット2:使用する水の量が少ない
意外に思われるのが、食器洗いに使う水の量。1回の洗浄で比較すると、
- 手洗いの場合 → 60〜83ℓ
- 食洗機の場合 → 9〜10ℓ
で、食洗機の方がずーっと少ないことが数字から分かります。節水になりますし、月々の水道料金の削減にもつながります。
ただ「コスト」の面では一概に「手洗いよりもお得」とは言えない側面も。食洗機を使う場合は、手洗いではかからない電気代、設備代(耐用年数による食洗機の買い替えを含め)、食洗機専用の洗剤代などのランニングコストが発生します。
メリット3:家事の時短と労力の削減
家族が多いほど、鍋が大きかったり、食器がたくさんあったり、洗い物の負担は増えて時間がかかります。共働きならなおさら、家での時間は限られます。そんなご家庭に、食器を洗って乾かしてくれる食洗機は「時間と労力の削減」という大きなメリットをもたらし、浮いた時間は家族の団らんや自分の時間に充てられます。
また私自身が実感しているのは、体調不良のときのありがたさ。体調が良くないときは食器洗いですら大変ですが、かといってほったらかしにしておくと、汚れた食器類がシンクに溜まり、それもまたストレスに。食洗機があると、体調不良でも生活レベルを維持できます。
メリット4:手荒れや食器の破損リスクを減らせる
食器用洗剤やお湯による手荒れなどの肌トラブルでお悩みの方にとって、食洗機は強い味方です。また加齢による握力の低下による洗い残しや、手が滑って食器を割ってしまうなどのリスクを避けられるのも、食洗機導入のメリットと言えるでしょう。
食洗機のデメリット・注意点
食洗機についてはメリットを感じる方のほうが圧倒的に多いですが、場合によってはデメリットとも考えられる注意点をいくつかご紹介します。
まず、食洗機は比較的高価なお買い物です。特に海外メーカーのビルトインタイプは、機器代だけで少なくとも数十万円。また先にも触れたように、電気代がかかりますし、将来的な取り替え費用も考慮する必要があります。
また、一定の幅が必要なので、キッチンが小さいと設置するスペースが確保できないことも。衛生面を考えると、食洗機は定期的なメンテナンスも不可欠です。
洗濯機ですべての衣類が洗えないように、食洗機に不向きな食器類があります。
- 強い水圧
- 洗浄時の高温のお湯や、熱風による乾燥機能
- 食洗機専用洗剤に含まれる成分や高温の洗浄液
が、起こりうるトラブルの原因として考えられます。そのため、以下のような物の使用は避けましょう。食洗機は、正しく使わないことに起因する事故や故障が多い設備です。詳しくは、実際に使用する機器の取り扱い説明書を必ずご確認ください。
食器・道具の種類 | 起こりうる問題 |
・カットガラス | ガラスが白濁したり、割れたりすることがある |
・耐熱90℃以下のもの ・温度表示のないプラスチック容器 ・小さくて袋状のもの(哺乳瓶の乳首など) | 変形したり、水圧で飛ばされたりすることがある |
・ビン | 口が小さくて中まできれいに洗浄できない |
・表面に傷やはがれがあるフッ素樹脂加工のフライパン | コーティングがはがれることがある |
・銀製、洋銀製食器など | 金色に変色し、その後黒く変色 |
・漆器 | 表面仕上げがはがれることがある |
・アルミ製の鍋、食器 (アルマイト処理していない) | 白く変色してから、灰色に変色 |
・木の食器 | ひび割れや膨張を起こすことがある |
参考:Rinnai
ちなみに以下のような、形が複雑でスポンジやブラシが届きにくい物、手で洗うのに危険な道具類は、食洗機の使用に向いています。
- ザル
- おろし金
- 急須
- スライサー
- フードプロセッサーの刃の部分
「ビルトイン食洗機」選びの4つのポイント
①食器の入れ方
ビルトイン食洗機には、食器の入れ方違いで2種類のタイプがあります。
●スライドオープンタイプ
これは、食洗機を本体ごと引き出すタイプで、下方から順に食器をセットします。目一杯引き出すと、およそ45〜50㎝手前に出てきます。
中の仕切りは複雑そうですが、食器の大きさや形状に合わせて簡単に動かせます。毎日使う食器はそれほど大きく変わらないので、食器の定位置は比較的早く決まるでしょう。無理のない姿勢で食器の出し入れができるのもメリットです。
●フロントオープンタイプ
扉を手前に倒し、カゴを一段ずつ引き出して食器をセットするタイプの食洗機。扉の高さ分が手前に倒れ出る仕組みです。幅がより広い60㎝の食洗機だと、想像以上のサイズ感に思えるかもしれません。仕切りがシンプルで出し入れが容易ですが、下段のカゴが低いので、出し入れ時には腰を屈める必要があります。
特に、幅60㎝のタイプの下段のカゴは、手が届くギリギリの距離。決して安い買い物ではないので、実機で動作確認をしたうえで導入を検討しましょう。同幅のスライドオープンタイプより容積が大きいので、鍋や道具類もまとめて洗える場合が多いです。
②食洗機本体のサイズ
●ビルトイン食洗機の幅は「45㎝」か「60㎝」
システムキッチンのフロアキャビネットは、幅15㎝・30㎝・45㎝・60㎝・75㎝・90㎝の各ボックスの組み合わせで構成されています。食洗機はそのうちの「45㎝」または「60㎝」のボックスにセットできる仕様です。これは国内メーカーも海外メーカーも同様です。
●容量は「人数分」で表示
食洗機の容量は「5人分」、「6人分」と、人数で示されます。これは、日本人の1食分の食器の使用点数から導いた収納量。例えば、パナソニックの食洗機のカタログでは、
- 飯茶碗
- 汁椀
- 大皿
- 小皿
- 中鉢
- 湯呑み
- グラス
が1人の1食分として換算されていて、5人分ならこれを5倍した量が「5人分」の容量となります。3人家族で、「6人分」の機種を選択すると、だいたい食事2回分の食器を一度に洗える計算になります。
コンパクトな機種でこまめに洗うか、大きいサイズの機種でまとめ洗いをするか。各家庭のライフスタイルがどのようなパターンかが、機種選びの一つのポイントになるでしょう。
まとめ洗いする場合は、食洗機に入っている食器が使えないので、食器の数が多めに必要です。大容量の食洗機は、家族の人数が多い場合はもちろん、1回の稼働で1日分の食器すべてを洗いたい方や、鍋や調理器具もまとめて洗いたい方に向いています。
リフォームで必要な奥行き60㎝のキッチンに対応する機種も
現在のキッチンの奥行きは65㎝が主流ですが、かつては奥行きが60㎝のキッチンがメインの時代がありました。故障によってビルトイン食洗機のみを交換したい場合や、新たに食洗機を組み込みたい場合、機種は限定されますが、製品は販売されているので設置が可能です。
③電源の電圧 100V?200V?
食洗機の電圧は、100Vと200Vの2種類があります。違いは「パワー」です。国内メーカーの食洗機は100Vに対応したものが一般的ですが、注文住宅を建てる方に人気のミーレやボッシュをはじめとする海外メーカーの食洗機は200Vの電圧を必要とします。
パワーがある分、短時間に一気に洗い上げられるのが特徴で、最近は国内メーカーでも200Vの食洗機がラインナップに加わっています。
④乾燥機能
一般的に食洗機には乾燥機能が備わっていますが、その手法はメーカーや機種によってさまざまです。基本的には食洗機選びの際に、どのような乾燥機能が備わっているかをしっかりと確認する必要がありますが、ここでは大まかに2パターンを解説します。
●熱風乾燥
食器や調理器具を熱風で乾燥させる方法。洗浄サイクルの最後に、食洗機内の熱風を循環させて、食器の表面を乾かします。比較的効率的で、食器類を確実に乾燥しやすいですが、エネルギー消費量は高くなります。国内メーカーで多く採用されています。
●自然乾燥
洗浄で使った高温のお湯の余熱を利用する方法です。余熱を利用するので省エネで、海外メーカー製品の多くはこの乾燥方式を採用しています。
洗浄終了後に扉を開くと湯気がたちのぼり、自然に乾燥が進みます。この状態をそのまま生かした食器洗い機もありますが、開いてカゴが出た状態は邪魔ですし、洗浄直後はかなり高温になっているので触ると危険です。海外メーカーの機種には、洗浄後、扉が自動的に少し開いて、蒸気を逃す工夫をした製品がありますが、高温の蒸気には触れないよう注意が必要です。
国内メーカーの機種では、乾燥時の蒸気を35℃程度に下げて排気する製品もあります。蒸気の排気位置は機種によって異なりますので、安全のためにチェックしておきたいところ。また、洗浄時の温水で高温になった庫内の熱を循環させる「送風」で、食器の乾燥を早める機能が付いた機種もあります。
清潔さを保つための「メンテナンス」が必須
長く清潔に使い続けるためには、「メンテナンス」が欠かせません。毎回した方がいいこと、ときどき行う必要があることをまとめました。
●毎回のメンテナンス →「残菜フィルター」を掃除
食洗機を使った際、食器や料理道具に付着していた残菜は、水圧で「残菜フィルター」に集められます。このお手入れを欠かすと、ニオイやカビの原因に直結して、衛生上よくありません。「残菜フィルター」は簡単に取り外せますので、柔らかいブラシなどで都度汚れを落とし、次の洗浄に備えましょう。
●ときどきのメンテナンス →庫内のチェック
ときどきで良いですが、庫内に乾燥せずに残っている水滴を拭き上げて、ノズルやカゴに汚れやキズがないかをチェックしましょう。定期的に見ていれば、小さな不具合を発見しやすくなります。長く使うためには、トラブルは早期発見が肝要です。
食洗機の寿命は10年程度と言われていますが、もっと長く使っている方もたくさんいます。お手入れの仕方は取扱説明書に書かれていますので、機種に合ったメンテナンスを継続しましょう。
新築やリノベーション、リフォームで導入を決めた場合、ビルトイン食洗機を使うのが初めてという方も多いでしょう。「食器を洗ってくれる便利な機械」ということは知っていても、具体的な使い方まではイメージしにくいもの。
ライフスタイルに合わないと、せっかく高いお金を出して設置した食洗機がただの収納になってしまうことも。「思っていたのと違った!」と後悔しないよう、今回ご紹介したポイントをあらかじめ確認して、納得の食洗機を選んでくださいね。