現行省エネ基準の義務化が、2025年に向けてようやく動き始めました。同時に等級5~7も具体化され、すでに住宅の建設も始まっているようです。この連載の第28回ではその概要について取り上げ、特に住宅で消費される一次エネルギー計算に大きな疑問があることを述べました。今回は、等級6~7の住宅のUA値の計算や、断熱仕様及び暖房負荷(暖房費)について分析してみたいと思います。
新住協ではQ1.0住宅による家づくりを進めてきました
日本の省エネ基準は、1999年(平成11年)に次世代省エネ基準としてスタートして以来、20数年その省エネレベルを変えることなく続いています。2020年に義務化するとの表明も意味不明な理由で見送られ、当時の菅政権の脱炭素宣言によって、ようやく重い腰を上げた国交省が2025年義務化を打ち出し、前に進み始めたようです。
新住協では、2005年にQ1.0住宅を提案し、一般住宅の暖房費の半分で全室暖房ができる家づくりを始めました。このような家は、北海道ではQ値がおおむね1.0前後になることからQ1.0住宅と名付けられました。その後、2011年からは全国各地の気候区分に合わせて、省エネ基準住宅に比べて暖房費を削減する比率を再定義して、Q1.0住宅レベル−1~4の住宅を提案し、新住協の会員に全棟Q1.0住宅レベル−1以上の性能を持つ家づくりをすることを勧めてきました。
国の省エネ基準に等級7というとてもレベルの高い基準ができ、私たちも新しい目標として、全棟Q1.0住宅レベル−3を目指そうと目標を高めました。偶然ですがQ1.0住宅レベル−3は、1~3地域では等級6とまったく同じ水準です。一方、等級7を実現するにはお金がかかりすぎて、その効果に見合わないと感じています。
とても高性能な等級7の住宅〜しかしお金も相当かかりそう
表1に、1・2地域の省エネ基準等級6・7とQ1.0住宅レベル−3・4を、120㎡モデルプランに当てはめたときの断熱仕様を示します。
等級6とQ1.0住宅レベル−3は1・2地域でまったく同じ仕様でクリアできます。
外壁はHGW16㎏105㎜厚が2層の210㎜断熱で、コストの安いGWを使ったコストパーフォーマンスの良い仕様です。床もグラスウールボードを付加断熱に使い、ローコストで施工できます。開口部はPVCサッシに2Ar2Low−E16㎜トリプルガラスで、今や北海道では普通の構成です。この仕様なら、省エネ基準住宅に比べて坪3万円程度のコストアップで済みそうです。省エネ基準では、熱交換換気でも第3種換気でもUA値は変わりませんから、どちらを使ってもかまわないのですが、暖房負荷は熱交換換気が第3種換気に比べて約半分になります。
Q1.0住宅レベル−4にするためには、天井の吹き込みグラスウールを100㎜増やし、外壁は210㎜に、さらに105㎜増やし総厚315㎜にする必要があり、1地域はこのうち105㎜分がHGW20㎏の高性能品を使う必要があります。同じく1地域の床は210㎜厚に増やす必要があります。開口部のガラスは通常のトリプルガラスから、輸入の新型ガラスにする必要もあり、これらのコストアップは、レベル−3に比べて坪2万円近くになりそうです。
暖房負荷の削減量は、表の下欄から札幌で1,042kWh、旭川で1,289kWhとなり、効率85%の灯油暖房に換算すると120~150Lくらいでしかありません。灯油を高めに見積もっても2万円以下です。30年計算でようやく工事費増分の元が取れそうです。
さらに、等級7を実現するためには、天井の吹き込みグラスウールを密度の高い高性能な材料に変え、床もさらに厚くする必要があります。外壁に至っては、グラスウールの2倍近い性能のネオマフォーム100㎜厚を加えて300㎜級の断熱が必要になります。外壁の面積は140㎡ほどありますから、工務店の購入価格が、ネオマフォームだけで70~80万円にもなりそうです。安価なグラスウールを使うと400㎜級の外壁になってしまいます。これはできないわけではありませんし、この方が安くなりそうですが、300㎜級に抑えるにはこのような材料を使うしかありません。
暖房負荷の削減量は、札幌で480kWhとなり、灯油に換算して55Lです。これは、かけるお金にまったく見合わないと思います。暖房負荷の計算結果をグラフにして図1に示します。
等級6・7で第3種換気と熱交換換気の差が大きいことが分かります。7等級では暖房負荷が半分以下になります。熱交換換気は、このような高性能住宅では必須条件なのです。パッシブ換気を採用する人たちもいますが、これは電気を使わない第3種換気に過ぎず、電気代よりも暖房費削減の方がはるかに大きくなります。