地球上でさまざまな災害を引き起こしている気候変動は、人の営みや経済活動によって排出されるCO2量の増加が一因とされています。その状況を改善するために、今、食や自動車、衣料品などさまざまな分野で「脱炭素化」への取り組みが活発化していますが、それは住宅でも同じです。
その大きな動きの一つが「住宅の高性能化」。今回は、その断熱性能の指標として用いられ、住宅性能の評価に不可欠な「UA値」と、気密性能の指標である「C値」について解説するとともに、住宅性能とデザイン性を両立した北海道の注文住宅3例をご紹介します。
「UA値(外皮平均熱貫流率)」とは?
UA値(外皮平均熱貫流率)は、「屋内の熱が外皮(屋根、天井、外壁、窓、床)を介してどの程度逃げやすいかを示す数値」です。
この数値が小さいほど「屋内の熱が逃げにくく、外気の影響を受けにくい」=「断熱性能が高い」ことを意味し、近年の家づくりでは、住宅性能レベルを判断する際の指標の一つとして標準的に用いられています。
国が定める現状の次世代省エネ基準で北海道は地域区分1、2に該当し、その基準値は「0.46W/㎡K以下」となっています。
UA値(外皮平均熱貫流率 W/㎡K)=屋内から逃げる熱(W/K)/外皮面積(㎡)
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C値(相当隙間面積)とは?
UA値とともに住宅性能値の指標とされるのがC値(相当隙間面積)です。C値とは、「家にどれだけの隙間があるか」という住宅の気密性能を表し、C値が小さいほど隙間が少ないことを示します。
古い家ではよく「隙間風が吹く」といいますが、これは自然換気ができている反面、寒さや暑さを常に屋内に取り込み、暖冷房のエネルギーを無駄に外へ放出していることを意味します。気密性能を上げることで空気の出入りが少なくなり、エネルギーの損失を減らせます。
ただ自然換気がなくなる分、機械による24時間換気で、室内の空気環境をきれいに保つ必要が出てきます。
温熱環境に関する住宅性能は、断熱性を示す「UA値」と気密性を示す「C値」が重要な指標となります。
C値(相当隙間面積 ㎠/㎡)=家全体の隙間の合計(㎠)/建物の延床面積(㎡)
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「UA値やC値が良い」=「良い家」?
UA値やC値に代表される住宅性能値は、性能の確かさを測る重要な目安ではありますが、「UA値やC値などの性能値が良い」=「良い家」ということにはなりません。
極論すると、家を凹凸なく四角くして、窓をできる限り小さく少なくすれば、基準値を上回る住宅性能値は得やすくなります。でも外との気持ちがいいつながりはありません。それは果たして本当に「良い家」でしょうか?
「良い家」の基準は人それぞれで、快適な温度もさまざまです。断熱性能をできる限り高め、一年を通して安定的にコントロールされた室温の家を好む人もいれば、そこまで高い性能は必要なく、自分たちの感覚に合わせて室温を調整しやすい家を望む人もいるでしょう。
たとえUA値がお住まいの地域の基準をぎりぎりでクリアする値であっても、設計的に工夫されていて、住まい手が気持ちよく暮らせる環境が整っていれば、それは「良い家」になり得ます。
数値の良しあしだけに注目せず、「敷地条件に合っているか」、「新居でどんな時間を過ごしたいか」など、住まいを広い視座で捉え「自分たちにとっての良い家」を追求することが、心から納得できる家づくりのポイントです。
「性能」と「デザイン」を両立。
北海道の建築家が設計した住宅実例3
「住宅性能」と「デザイン」は両立できます。そして、「温熱環境の快適性」や「建物の長寿命化」など、住宅性能を高めることによるメリットを享受しながら、自分らしい暮らしを実現することも可能です。ここでは、北海道の建築家が設計したUA値・C値ともに高レベルな3つの住宅実例を、具体例としてご紹介します。
広さ約27坪。庭の木々と
田園風景に囲まれた2階LDKの家
Kさん宅 夫婦40代、子ども1人
UA値:0.29W/㎡K
C値:0.10㎠/㎡
広さ27坪ほどのKさん宅は、樹齢50年ほどの庭木が生い茂る土地に立っています。ここはかつて奥さんの祖父母が暮らしていた場所。周囲をぐるりと自然に囲まれたロケーションを生かして設計されたのは、2階のボリュームが大きい2階LDKの家です。
素地のままの構造用合板の床、構造現しの天井、シナベニヤの造作キッチンと、ラフな素材使いでまとめられたLDKには、ご夫妻が選んだ家具とインテリア小物、オーディオ、グリーンなどが散りばめられています。
Kさんご夫妻が新居で最も驚いたのが、家の中に寒い場所がなかったことです。北方型住宅2020*レベルの性能を備えた住まいには、奥さんの要望で灯油ボイラーを採用。2階フロアを縁取るようにパイピングして、ガラリを設置。1階床にも放熱器を設置して、空間全体を24時間、穏やかに暖め続けています。
*北海道が定めた高性能で高品質な住宅の証となる基準
「灯油は値上がりしているのに、ランニングコストは前の家とほぼ同じ」と奥さん。以前は湯たんぽが手放せず、ドアも開けっ放しにしないよう気を使っていましたが、新居ではそういったストレスからも解放されたといいます。確かな住宅性能が、ご家族のおおらかな暮らしにつながっています。
<設計 アーキラボ・ティアンドエム>
北方型住宅2020、長期優良住宅の
基準をクリアした
プライベートサウナのある住まい
Tさん宅 夫婦30代、子ども1人
UA値:0.22W/㎡K
C値:0.20㎠/㎡
「のびのびとした環境で子育てをしたい」と考えたTさんご夫妻が選んだのは、札幌市から車で1時間ほどの距離にある、移住促進のために町が斡旋している分譲地。そこに、広さ約50坪(ガレージを含む)の2階建てを新築しました。
新築にあたりTさんが最も嬉しかったのは、憧れだったプライベートサウナの設置です。サウナ室の隣には水風呂と「ととのいテラス」を配置。このサウナをはじめ、居心地の良い居場所が増えたことで、休日の行動範囲がぐっと狭まったとTさんは笑顔を見せます。
家づくりに関しては立地条件と同じくらい住宅性能にもこだわりがあったというTさん。この家は「北方型住宅2020」と「長期優良住宅」の基準をクリアした高性能住宅で、一次エネルギー消費量の基準であるBEI(Building Energy Index)も、ZEH+の該当基準値以下の0.63を実現しています。
奥さんは「引っ越したばかりで燃料代も上がっているのに、光熱費は驚くほどの金額にはならなかったんです。これからもっと工夫して、さらに燃費良く、楽しみの多い暮らしを目指していきたいです」と新生活に胸を膨らませています。
<設計 石塚和彦アトリエ>
屋根一体型太陽光パネル
「エコテクノルーフ」を採用した
ZEH相当の高台の家
Mさん宅 夫婦40・30代、子ども2人
UA値:0.38W/㎡K
C値:0.30㎠/㎡
眼下に広がる街並み、その向こうに広がる大海原。この風景に「ここなら自分たちらしい住まいができる」とMさんは確信したといいます。
Mさんは「家を建てるなら太陽光発電システムを備えたZEHレベルの性能が必要」と考えていました。そこで建築家に提案された、屋根材一体型の太陽光パネル「エコテクノルーフ」を採用することに。大きくてフラットな屋根そのものが、日常の電気を生み出します。
設備による省エネと同時に、陽射しや自然の風を活かすパッシブデザインの考え方もとり入れられています。例えば、180度遮るものなく見渡せる景色を最大限に取り込んだ1階リビングの大開口は、高性能なLow-Eトリプルガラス樹脂サッシを組み合わせて施工。春先や秋口の肌寒いの時期でも、陽射しがあれば室内は暖房いらずです。
奥さんは「この家に暮らし始めて、自然の力を暮らしに活用できていると実感している」といいます。太陽光発電で得たエネルギーの余剰分は売電。令和4年度は23万円程度の売電収入があり、その分を差し引くと年間でかかった光熱費は9万円程度で済みました。
高断熱・高気密をベースにしつつ、日射や自然の風を生かしたり、太陽光発電を用いたりすることで燃費のいい暮らしを実現したMさんの住まい。住宅性能と設計デザインを両立し、この場所だからできるご家族らしい暮らしを楽しんでいます。
<設計 (株)KAWANOJI>
UA値とC値は、住宅性能の高さを判断する重要な指標です。ただ、先にもお伝えしたように、この値がイコールで「良い家」の指標というわけではありません。
確かな住宅性能を担保したうえで、選んだ土地やこれからの暮らし方にとってどんな家が望ましいのかを、ぜひ工務店やハウスビルダー、設計事務所などの家づくりのパートナーと一緒に丁寧に考えていきたいですね。