さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
前号まで「いごこちの科学」というテーマで4回にわたり、住宅の温熱環境や設備についてお伝えしてきました。本来はこの4回で終了。ということだったのですが、大変ありがたい(?)ことにさらに機会をいただけるということで、より深く住宅の室内環境やエネルギーのことを考えていければと思っています。
テーマは「NEXTハウス」。日本や世界の最先端の技術から見えてくる、住宅のミライの姿。その可能性を皆さんと一緒に見ていきましょう。
※この記事から、「いごこちの科学」シーズン2が始まります(冒頭文参照)。
ネクストワールド
ある年末年始に家族と過ごしていると、某国営放送で、「ネクストワールド」というテレビ番組を見る機会がありました。その番組が描いていたのは「私たちの未来」。コンピューターの発達による異次元の知性。バイオ技術による不老不死・若返りの実現……。さまざまな分野の科学や技術の革新が何をもたらすのか、我々の暮らしをどう変えるのか、という刺激的な内容でした。久々に面白いテレビ番組だと興味深く見たのですが、そこに一抹の寂しさを感じずにはいられませんでした。
「技術立国」?どこの国ですか?
一昔前、日本には「技術立国」を目指すというお題がありました。筆者(記事執筆当時39歳)が中学や高校の学生だったころ、日本中が熱気と自信に満ちているように感じたものです。「日本の技術は世界一である」「21世紀は日本の世紀になる」。皆さんも、聞いた覚えはありませんか?
当時、日本企業から続々と発売される最新機器は、全て「世界初」「世界最高」がついていました。自分はすごい国に生まれたものだと、子ども心ながら密かに誇らしく思ったものです。
ところが今はどうでしょう。日本が世界一?日本の世紀?もはや悪い冗談にしか聞こえません。先の番組でも紹介される最先端技術のほとんどは、外国のものでした。アメリカにとどまらず、インドや中国など世界のあちこちで、技術革新は急速に進んでいるのです。
バブル崩壊後の失われた20年、日本人はすっかり縮み上がってしまいました。テクノロジー・イノベーションへの関心が薄れ、進歩を忘れ、ただ現状維持に汲々とする。日本は世界の中で取り残されつつあるのかもしれません。
家はもっと住む人のためになれる
建築に限らず、技術や産業は進歩を止めてしまえば、後はひたすら堕ちていくだけ。安かろう悪かろうのデフレスパイラルに入っていくしかないのです。これでは家をつくる人も買う人も、幸せになることはできないと思います。
筆者は研究者として住宅の温熱環境や設備を研究していますが、「家はどこまで進歩するのか」「家はどこまで人の役にたてるのか」を知りたいということが、一番のモチベーションです。
技術の可能性の先にどんな住まいの形が見えてくるのでしょうか。「家はもっと住む人のためになれる」。今回はシーズン2に突入した「いごこちの科学 NEXTハウス」の1回目ということで、この連載で取り上げる予定の室内環境やエネルギーの技術について、ざっとプレビューしてみたいと思います。
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