最近は、地方都市でも宅地が狭小化しています。60坪以上で日照条件がある程度確保された優良宅地といわれる宅地は少なくなり、50坪以下の宅地が多いといわれています。このような宅地に立つ住宅は、南面の間口が狭く、隣家との距離も近くなり、方位も南向きから南東や南西に向くことが多く、日射取得に大きな制約があります。こうした住宅でパッシブソーラーデザインは、どの程度の効果があるのか、検討してみたいと思います。

4間×4間・総2階建て32坪プロトタイププラン

この連載の第18回で紹介した、4間✕4間の総2階建て住宅は、新住協の札幌支部の丸田絢子さんと私が共同で設計した、最近の狭小宅地に対応するコンパクト住宅です。同じく2.5間✕6間のモデルは、2棟が札幌市内に建設されましたが、このプランの建設はコロナのあおりを受けて中断してしまいました。

しかし、札幌の新住協会員がこのプランを参考にかなりの住宅を建設しているようです。このプランはもともと、建築家の堀部安嗣さんが設計した3棟の4間✕4間プランを参考に、堀部さんの了解を得て設計したもので、需要の多い4LDKの構成を、一応実現するものになっています。

図1にそのプランを再掲します。

図1 4間×4間プロトタイププランと南窓拡大の立面図(下3点)

1階の洋室とリビングの間の仕切り建具を取り払えば、広いリビング・ダイニングが実現し、家具配置でいろいろな空間構成が可能になります。5間✕10間の50坪の敷地にギリギリ入る設計になっています。敷地の間口が5.5間あれば、壁面後退1mの条件でも建設することができます。

前回の開口部の分析は、120㎡(36坪)の間口が5.75間の広いモデルプランでしたが、今回は間口が狭くなり、南面の開口面積は大きくはとれません。しかもこの住宅は、南向きから45度振って、主採光面が南西向きになっています。窓からの日射熱取得がかなり小さく、それでも120㎡プランとほぼ同じ断熱仕様で、Q1.0住宅レベル-3になっています。

しかも、省エネ基準住宅に比べて暖房負荷が札幌で26.5%、帯広で25.9%と削減率が大きく、Q1.0住宅レベルー4が25%以下ですから、ほとんどレベルー4に近い性能です。平面形が正方形で、総2階となっていて、床面積当たりの外皮面積が小さい、断熱効率の高い設計になっていることを示しています。

断熱仕様を表1に示しますが、暖房負荷は、方位を真南向きとして計算すると、札幌で2,591kWh、帯広で2,805kWh、灯油消費量で見ると、エコフィールのボイラーを使うと想定して、札幌で254L、帯広で296Lとなります。方位を45度振った場合は、札幌で5%、帯広で8%増えるようです。

表1 Q1.0住宅レベルー3の断熱仕様

南面の窓を拡大して太陽熱取得を増やす

この住宅の南立面図は図1の下に示しますが、必要最小限の大きさになっています。1,200✕1,200の大型横すべり出し窓を各個室に一つ付け、リビングには間口を1間より少し大きい片袖FIXを配置し、少し幅が狭いですがここから庭に出入りする設計です。南面の窓面積は10.4㎡です。

この南面窓を拡大するために、窓下の腰壁にFIX窓を入れ、2階寝室の窓を幅1間に広げてみました。これで15.9㎡と50%増しになります。この手法ならプランニングの変更なしで可能です。さらに広げるには、多少プランを変更する必要がありそうですが、1階の間仕切り建具を外し、広いリビングとして、南外壁の両袖に910㎜幅の袖壁を耐力壁として残し、いっぱいの開口部を設け、2階も同様としました。こうした設計なら、窓のデザインはもっとすっきりした構成が考えられますが、南面拡大1の立面図に追加する形にしています。このように3種類の南立面図で、真南向きとして暖房負荷を計算してみました。

PVCサッシは、シャノンウインドとしました。このサッシには、フレームの幅を狭くしたスマートシリーズがあり、さらにそのフレームの空洞部に断熱材を注入した高性能タイプもあり、そしてガラスを新型の高性能ガラスにも指定できるからです。それに加えて木製サッシは、山形のアルス製としました。このメーカーもガラスは、従来の国産のガラスのほかに、サンゴバン製の新型ガラスを採用できます。

ガラスの性能値を表2に示します。ガラスB、Dの新型ガラスは熱貫流率が少し小さくなり、日射侵入率が大幅に向上しているのが分かります。

表2 ガラスの性能仕様

札幌では効果が少ない帯広では有望な手法

札幌の計算結果を図2に、帯広を図3に示します。

図2 PVCサッシと木製サッシによる南窓拡大と暖房エネルギー(札幌)
図3 PVCサッシと木製サッシによる南窓拡大と暖房エネルギー(帯広)

窓拡大の効果は、札幌では標準の国産ガラス(ガラスA、C)ではほとんど効果がなく、木製サッシでは、拡大で逆に暖房負荷が少し増えています。新型ガラスは少し負荷が減っていますがその効果は5~7%程度です。一番良いのが、枠に断熱材を注入したタイプの新型ガラスで、12%程削減できます。サッシの性能向上の効果も大きく、合わせると30%位は削減していますから、効果は高いといえるでしょう。

帯広は日射量も多いため、どの組み合わせでも南窓拡大効果ははっきり見てとれます。新型ガラスの効果の方がやはり高く、10~20%にもなります。枠に断熱材を注入した対応の新型ガラスでは、窓拡大効果で25%、サッシの性能向上効果も合わせて45%も削減されます。これは省エネルギーとしては見逃せない手法といえます。