さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前 真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
寒さが続く中、あらゆるものが値上がりする2023年の冬は、特に厳しくなりそうです。今回はvol.034で扱った燃料費調整制度について、全国の電力事業者10社における最新の状況を確認するとともに、今後の対策を考えてみることにしましょう。
電気代の高騰が続く
新型コロナウイルス、そしてウクライナ侵攻に伴う世界的な製造・流通の混乱のためか、各国で物価の上昇が続いています。総務省が発表した2022年10月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く指数が103.4となり、前年同月比で3.6%上昇しました。
これは実に40年8ヵ月ぶりの高い上昇率で、電気代は20.9%、都市ガスは26.8%も上昇しました。物価上昇の中でも、世界的な争奪が繰り広げられるエネルギーの高騰は特に顕著なのです。
燃料価格に応じて変化する燃料費調整単価
すでにvol.034でも少しお話しましたが、電気料金のうち使用量に応じて課金される部分を従量料金と呼びます(図1)。
このうち、「電力量料金」は電力会社が変更しない限り一定ですが、太陽光などの再エネを買い取る原資となる「再エネ賦課金」は毎年見直し(2022年は3.45円/kWh)、「燃料費調整単価」は燃料価格に連動して毎月自動的に変化します。昨今の電気代の高騰は、主に燃料費調整単価の上昇に伴うものですが、さらに電力会社による電力量料金の改定も重なってきています。
電力料金のプランには 規制料金と自由料金がある
あまり知られていませんが、電力料金プランは「規制料金」と「自由料金」の2つに大きく分けられます。以前は全国に10社あった「一般電力事業者」が、発送電と販売を地域独占で一手に引き受け、発電にかかる全コストを反映した総括原価制により電気代を決めていました。これが「規制料金」で、東京電力の「従量電灯B」などが該当します。住民は規制料金プランからしか選べない一方で、電力事業者も電力量料金を改定する場合には国(経済産業大臣)に許可を受ける必要があり、燃料費調整単価にも上限が設けられるなど、消費者の保護も考慮されていました。
その後、電力販売の自由化が進められ、2016年4月からは家庭も含めて、すべての需要家が自由に電気の購入先を選べるようになりました。従来の一般電力事業者の小売部門を引き継いだ「みなし小売電力事業者」との契約を継続することもできますが、新たに「新電力」の小売事業者への切り替えも可能になったのです。消費者が自由に小売事業者を選択できる一方で、事業者は電力量料金を自由に改定でき、燃料費調整単価の上限設定も任意になりました。こうした新しいプランを「自由料金」と呼びます。
本来は、規制料金は2020年に廃止される予定でしたが、切り替えの遅れから当面の継続が決まりました。このため現状では、以前からの「規制料金」と2016年からの「自由料金」、どちらのプランも多く契約されています。
自由料金の燃料費調整単価 上限撤廃が相次ぐ
全国10社のみなし小売電力事業者における、燃料費調整単価の推移を図2に示します。
単価自体は上昇しているのですが、規制料金では上限のところで抑えられています。
自由料金プランについて、東京電力などでは以前から燃料費調整単価の上限が撤廃されていました(沖縄電力は特別措置として上限設定)。上限が設けられていた自由料金プランについても、2022年後半から上限撤廃が相次いでいます。四国電力は11月に、北海道電力・東北電力・中部電力は12月に相次いで上限を撤廃しました。当該プランを契約している人は、電力消費量が同じでも、急に電気代が上昇することになります。これから暖房での電力消費が増える中、電気代には特に注意が必要です。
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