いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)

東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)

この連載では、暖冷房を中心にお話をしてきました。今回はちょっと趣向を変えて、「給湯」をとりあげてみましょう。地味に見えますが日本人は特にこだわりのあるこの用途。実は皆さんの財布と健康にとって、とても大事なのです。

エネルギーを一番使っているのは何?

家の中では家電・照明・冷房・暖房・給湯など、様々な用途にエネルギーが消費されています。皆さんは「家の中で一番エネルギーを使っている用途は何?」と聞かれたら、どの用途と答えるでしょうか。

図1をご覧ください。東京理科大の井上隆先生が調査した結果では、「暖房」「冷房」と答えた人がそれぞれ4割。逆に給湯や家電と答えた人はごく少なくなっています。でも現実は大きく異なります。電気・ガス代からの推定では、寒冷な北海道や東北ではやはり暖房が多いものの、人口の集中する関東などの温暖地では給湯が最大級のエネルギーを消費しています。 

図1 一番エネルギーを使っている用途は何?
図1 一番エネルギーを使っている用途は何? 
「エネルギーを最も使っていると思う用途」を質問すると、ほとんどの人は暖房か冷房と答えます。しかし実際には、給湯の方が冷房よりもはるかに大きいのです。特に関東のような温暖地では、給湯は暖房よりも大きいのです。

なぜ給湯は気づかれない?

給湯のエネルギー消費が非常に大きい……というのは、実は新しい話でも何でもありません。筆者がいたいけな(?)学生だった20年近く前から、すでに専門家の間では当たり前の「常識」でした。では、なぜみんな気づかないのでしょうか。

筆者の推測ですが、たいがいの人は「電気代は月1万円。ガス代は月5千円」。とかいうオーダー感覚をもっています。それが夏や冬に急に増えるので、「やっぱり冷房や暖房は控えなきゃ!」となるのでしょう。ですが本当は図2のように、年間を通じて発生する照明・家電や給湯こそ肝心です。

図2 なぜ暖冷房ばかりが気にされるのか
図2 なぜ暖冷房ばかりが気にされるのか
暖房・冷房は冬と夏に電気・ガス代を増やすため、負担感が大きく感じられます。給湯や照明・家電はベースにまぎれているので、なかなか気づかないと思われます。

人間というのは「変化」には敏感な一方で、「安定」には鈍感です。日本では省エネが夏前か冬前の「季節のイベント」となっている感がありますが、それでは年間を通して発生する肝心な部分を見逃してしまいます。

日本人のお湯好きは世界一?

実は世界の中でも、日本人は給湯にたくさんエネルギーを使っています。図3に欧米と日本を用途別に比較しました。何も考えていないアメリカはともかくとして(失礼!)、フランスやドイツの給湯消費エネは7GJ。日本の15GJよりずっと少ないことが分かります。

図3 各国の住宅2次エネルギー消費の内訳
図3 各国の住宅2次エネルギー消費の内訳(出展:住環境計画研究所)
イギリスやフランスなどヨーロッパとくらべても、日本人の給湯の消費エネルギーはかなり大きくなっています。浴槽入浴や皿の手洗いなど、日常生活の中で湯を使う行為が多いことが主因です。

なぜ日本人は給湯にエネルギーを使っているのか?これは単純にお湯をたくさん使っているからです。欧米人は朝にシャワーを浴びるだけで、食器を洗うのも洗浄機まかせ。一方の日本人は浴槽入浴が今でも大好きですし若い人はシャワー出しっぱなし、食器洗いの時も手洗い……ですから、湯消費が多いのは当たり前。だから給湯のケアが重要となるのです。

筆者は以前に薪風呂を試しましたが(図4)、水やら薪やらを人手で準備するのはオオゴトでした。母親から風呂焚きは子どもの仕事だったと聞くと、昔に生まれないで良かったとつくづく感じます。給湯の「重さ」を感じるためにも、皆さんもぜひ一度は薪風呂をお試しください。

図4 ポータブルの薪ふろを試している様子
図4 お風呂はつらいよ?
筆者の研究室合宿で、ポータブルの薪ふろを試している様子です。180リットルの水を30度昇温に必要な熱量(ジュール)は約23MJ。薪1kgの熱量は約16MJなので、熱効率50%とすると3kg近い薪が必要となり、薪拾いや薪割りの労力もバカになりません。

幸い現在では、給湯の省エネにはさまざまな方法があります。以下では、給湯設備と水まわりの注意点を見ていきましょう。

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