いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスがようやく落ち着きを見せてきていた中、世界を震撼させる事態が発生しました。今回の事態に伴って、エネルギー価格が世界的に高騰し、私たちの生活にも直接影を落とし始めています。今回は、昨今のエネルギー事情と電気代・ガス代に含まれる「燃料費調整」について考えてみましょう。

ロシアのウクライナ侵攻は国際秩序を破壊する暴挙

北京で開催されていた冬季オリンピックが閉幕したのが2月20日。コロナも落ち着いてきて、やっと今年は日常生活に戻れるのかと、多くの人が期待していた矢先、ロシア軍のウクライナ侵攻が2月24日に突如始まりました。第2次世界大戦以来といわれる、この大規模であからさまな侵略についてはさまざまな議論が交わされていますが、到底認められるものではないというのが、ほとんどの人たちの共通認識でしょう。

戦争の裏にあるのはエネルギー問題

「①各国に主権が平等にある」「②力による現状変更は認めない」ことが国際秩序の大原則で、国連憲章にも明記されています。そもそもロシアはウクライナを主権を持った独立国と認めていないものと推測されますが、その勝手な理屈がまかり通るようでは、世界平和など維持しようがありません。  

そして近代以降の戦争においては、その裏にエネルギーの問題が必ず潜んでいます。今回のロシア・ウクライナの問題においては、まさにそのエネルギーが影の主役といっても過言ではないのです。

ロシアはエネルギー大国

ロシアは、ユーラシア大陸全体にまたがる広大な領土に膨大な資源を有し、特に化石燃料には大変恵まれています。石油・天然ガス・石炭のいずれでも、大きな埋蔵量・生産量のシェアを持っており、アメリカ・サウジアラビアと並んで、化石燃料の「ビッグスリー」と呼ばれています。

特に天然ガスのシェアは世界トップで、豊富な天然ガスを生のままパイプラインで西ヨーロッパに輸出し、膨大な外貨を稼いでいます。産業が立ち遅れているロシアにおいては、化石燃料の輸出が国全体を支えているといっても過言ではありません(図1)。

図1 日本とドイツのロシア産エネルギー依存率の比較
出展:ロシアの世界シェア bp “Statistical Review of World Energy 2021”
日本のロシア依存度 日本のエネルギー2021

ヨーロッパで天然ガス急騰

ロシアの天然ガスはパイプラインで効率よく供給されて安価なため、ドイツをはじめとする西ヨーロッパはますます依存するようになっていました。特にドイツは、CO₂を削減させつつ産業競争力を維持するため、国産の石炭からロシアの天然ガスへのシフトを強力に推進。新しいパイプラインをバルト海の海底に新設し、ロシアからガスを直接輸入できる体制を整えました。中抜きされるウクライナなど東欧諸国は、このドイツの「ロシアべったり」の姿勢に、強く反発してきました。  

グラフ1に、アメリカ・ヨーロッパ・日本の天然ガス価格の推移を示します。


グラフ1 アメリカ・ヨーロッパ・日本の天然ガス価格の推移
出展:WorldBank

2020年からのコロナショックで経済活動が停滞すると燃料がダブつき、ガスの値段は1.58ユーロと記録的に安くなりました。ところが2021年後半になると、キナ臭い雰囲気が広がったのかガス価格は暴騰。3月には42.39ユーロと、実に30倍近く値上がりしてしまいました。

ヨーロッパ各国で電気代が3倍になったなどというニュースが報道されていますが、1年少しの間に記録的な「暴落から暴騰」という価格の激変が、住む人の痛みをより強く感じさせているのでしょう。

ヨーロッパの払う燃料代がロシアの侵略を支えている

ウクライナ侵攻開始後、ロシアへの制裁がさまざまに発表されています。しかし、西ヨーロッパはロシアのエネルギーに強く依存しているため、その輸入を急に止めることができません。

ある推計では、侵攻後の2ヵ月間でヨーロッパがロシアに支払った金額は実に8兆円以上。価格の高騰により、むしろ支払い金額は急増しているのです。ロシアの侵攻を支えているのは、ヨーロッパが払う燃料代といっても過言ではありません(図2)。

図2 ドイツのエネルギー改革の現状

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