冬の住まいの悩みの一つに挙げられるのが、室内の空気の乾燥と結露。どちらにも大きく影響しているのが、空気中に含まれる水分量、湿度です。人にとっても、建物にも最適なのは40%以上の湿度を保つことといわれています。
そこで今回は、乾燥しがちな室内環境を改善する加湿方法や暖房と湿度のバランスを整えるためのポイントに注目。ピーエス株式会社の企画開発・営業リーダーの弘田七重さんに、空気環境・温熱環境のプロとしての立場からお話しいただきます。
温度と湿度は一対のもの。
室温と湿度は反比例する
空気の乾燥によって普段は意識しない湿度の変化にも敏感になる冬。近年は、換気とともに室内を適正な湿度に保つことが、インフルエンザなどの感染症対策に有効といわれています。「基本的には湿度40%以上を維持することが、健康な室内環境を保つ一つの目安になります」と、弘田さんは話します。
一般的に湿度とは、室内の空気中に含まれる水蒸気量を示した「相対湿度」のことを指し、暖房の影響で温度が高くなると湿度は下がっていく性質があります。空気は温度が高くなるほど多くの水蒸気を含むことができるため、空気中の水蒸気量が同じ場合は、温度が高いほど相対湿度が低くなるのです。例えば、27℃の25%と20℃の40%の空気に含まれる水蒸気量はほぼ同じです。
また、冬の悩みの種となる結露は、空気中の水分が水滴となって現れてしまう状態です。室内が22℃で40%の場合、壁や窓周りが14℃以下になると、その周辺の空気が冷やされて水蒸気を含みきれなくなってしまいます。つまり、結露は室内の温熱環境の問題というサインでもあるのです。
「暖房と湿度は一対のもの。建物の健康を損なう結露を防止しながら、適正な湿度を保ち、快適な室内環境を実現するためには、放射暖房で24時間家全体を緩やかに暖め、冷たい場所をつくらないことが大切です。目指したいのは、室温20℃〜22℃。40%以上の湿度を保ちながら、ご自身の体感に合わせて調整していくことで、身体にも建物にも健康的な環境を実現できます」。
1日に吸う空気量は20kg!
だから、加湿器選びも慎重に
健康的で快適な冬の室内環境を保つために大きな力になるのが、加湿器。加湿器には大きく分けると、ヒータなどで加熱してつくった水蒸気を拡散させる「蒸気式」と、水を細かい霧状に噴霧する「細霧式」と、加湿材に通風することで水を常温気化させる「気化式」、それらを組み合わせた「ハイブリッド式」があります。
加熱する蒸気式に比べ、後者の2つは消費電力が少ないというメリットがあります。その一方で、水の交換や部品の清掃などを怠るとカビやレジオネラ菌などが繁殖する恐れがあります。「人は1日20kgの空気を吸っているといわれています。それだけに、加湿器の水環境も衛生的でなければいけません。細霧式や気化式は、メンテナンスの手間を厭わない方に向いていると思います」と、弘田さんは語ります。
衛生面でもメリットが高いのが、水を沸き上げ、菌や不純物を撒き散らさない蒸気式。「私たちが扱う業務用加湿器でも、抵抗力の弱い人が集まるクリニックや子ども園、福祉施設などでは、蒸気式が主力。近年は健康的な室内環境づくりの一つとして、一般のご家庭でも採用されるケースが増えてきました」。常に衛生的に運転できる蒸気式は、メンテナンスが大変という加湿器特有の悩みも軽減してくれます。
ちょうどよい湿度環境は
空気の流れがつくる
室内の空気に十分な潤いを与えるためには、加湿器の設置場所も重要。そのカギとなるのが、室内の空気の流れです。「足りないところへ移動し、拡散するのが湿度の特性。そのため、加湿器の水分を空気の流れに効率よく乗せることが大切なんです。お部屋に座ってゆっくり過ごしていると、空気の流れを感じることができます。加湿器を設置する際には、まず空気の経路をご自身で体感してみてください」と、弘田さんはアドバイス。
蒸気式の加湿システムはサイズのバリーエーションが豊富で、吹き抜けを設けた開放的なリビングに設置すれば、住まい全体の湿度環境向上に有効だといわれています。また、24時間換気を採用している住まいは、加湿器は外気を取り込む吸気側に設置すると、新鮮な空気とともに加湿器の水分が部屋全体に行き渡ります。逆に、汚れた空気を外に出す排気側に置くと、その空気と一緒に水分も排出されてしまいます。また、朝晩に温度が下がりやすい窓の近くに設置すると、結露の原因になる場合もありますのでご注意を。
住宅の大きさや暖房や加湿の方式、暮らし方によって、住まう人にちょうど良い湿度のつくりかたは変わります。「加湿器をつけているのに湿度が上がらない!」と一律に悩むのではなく、新築やリノベーションを思いたったら、住まいの潤い環境についても考えることが大切です。
(文/Replan編集部)
取材協力/ピーエス株式会社