さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
コロナウイルスの問題は依然として深刻ですが、地球温暖化の問題も忘れてはなりません。今年になって「脱炭素」という言葉を耳にする機会が急に多くなってきました。住宅も無関係ではありません。今回は「住宅の脱炭素」をめぐる最新動向をお届けします。
温暖化対策が遅れた日米
世界各国が地球温暖化に連携して取り組むため、パリ協定が2015年12月に採択されました。日本は2030年までに2013年のCO2排出量から26%減らすことを約束しました(図1)。
ただし、この26%という削減目標は他の先進国に比べ控えめで、必ずしも評価されませんでした。さらに、2016年に共和党のトランプ大統領が就任すると、石炭・石油産業への配慮のためか、アメリカの温暖化対策は完全に後ろ向きに。2019年11月にパリ協定から正式に離脱するという発表は、世界に大きな衝撃を与えました。
アメリカが脱炭素 日本も脱炭素
その後も紆余曲折ありましたが、今年になって民主党のバイデン大統領が就任すると、温暖化対策を最重要課題として打ち出します。コロナ後の経済回復の柱に環境対策を掲げる「グリーン・リカバリー」です。
アメリカが変わるとなると、日本もすぐ変わります。菅政権は2020年9月の就任当初から、規制改革と脱炭素を重点政策として掲げ、CO2排出ゼロの「カーボンニュートラル」を2050年までに達成すると宣言しました。
そこで太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及を阻害する規制を洗い出す「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」、通称「再エネタスクフォース」を発足します。さらにバイデン大統領就任後、主要国として真っ先に訪米し、「日米気候パートナーシップ」を締結。アメリカと連携して脱炭素の加速を約束します。
日本全体のCO2削減目標26%から46%に大幅引き上げ
日米首脳会談に続き、4月22日にオンラインで開催された気候変動サミットでは、各国が従来以上に積極的な削減目標を発表しました(図2)。日本も2030年までにCO2排出量を2013年から46%減らすことを宣言しました。従来の26%削減から、20%もの大幅な上積みです。
住宅の削減目標は40%からどれだけアップ?
日本全体でCO2排出量を46%削減するためには、どれくらいの対策が必要なのでしょうか。実は、日本全体で26%削減というもともとの目標において、住宅(家庭部門)は39%削減という、非常に厳しい目標が設定されていました(図3)。
今回、日本全体で46%も削減しなければならなくなったのですから、住宅の削減目標も大幅な引き上げは不可欠です。なにしろ、約6000万戸もある住宅ストック全体が相手なのですから。
住宅の省CO2は順調に進んでいる?
それでは、住宅のCO2排出量はどれだけ減っているのでしょうか。家庭部門の2019年排出量は1.59億トンで、23.3%減少しています。この数字だけ見ると、「結構減っている」印象を持つ人も多いかもしれません。
しかし、この削減分の多くは、単純に電気自体のCO2排出量が減ったためです。2013年は震災直後で原発がほぼ全停止し、代わりにCO2排出が多い石油火力発電所などを稼働させたため、電力量あたりのCO2原単位が非常に大きくなっていました。現在ではCO2排出が少ない天然ガス火力や太陽光など再エネが増えたため、CO2原単位は18%も少なくなったのです。
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