ステイホームや在宅ワークなどで「おうち時間」が増え、お出かけの機会が少なくなっている今、緑のある暮らしに関心が集まっています。その一方で、興味はあるけれど、どうしたら観葉植物が枯れずに育つのかわからない。緑が心地よさそうに、生き生きと育つお部屋にするには、何に気をつければいいの? そんな声もちらほらと聞こえてきます。
そこで今回は、北広島市にあるピーエス株式会社のコンセプトショールーム「PSマダガスカル」に注目。一年中、亜熱帯植物がぐんぐん育つ空間の秘密について、企画開発・営業リーダーの弘田七重さんにお話を聞きました。
築50年の建物を活かした
緑の楽園「PSマダガスカル」
窓ガラスの向こうが氷点下10℃の銀世界でも、マンゴーやバナナなどの果樹、珍しい木生シダのヘゴや観葉植物が元気にのびのび育つ場所。ピーエス株式会社北海道支店のオフィスに併設された、ショールームと打ち合わせスペースを兼ねた空間「PSマダガスカル」です。
「この場所を活用して、北海道の長い冬を快適に過ごせる室内気候のお手本となる体感型のショールームを実現できたら…。そんな想いから、緑が主役の空間づくりに取り組んでいます」と弘田さん。
既存の植栽に、珍しい品種の亜熱帯植物を加えた50種類以上の植物を植え、水路や池も設置。また、ガラスに囲まれた空間でありながら、加湿・温熱設備を導入することで植物が一年中生き生きと育つ室内環境を実現しています。
この空間は「PSマダガスカル」と名付けられ、打ち合わせスペースとしても開放されています。歳月を重ねるほどに緑が豊かに濃くなるPSマダガスカル。「お客様との打ち合わせだけではなく、ここで働くすべての人のリフレッシュの場、アイデアを練る空間としても活用されています」。
日々の緩やかな変化が
つくりだす豊かな景色
PSマダガスカルは、自社の放射冷暖房ラジエータや複数の加湿設備によって、通年で20℃以上の室温と50%前後の湿度が保たれています。それ以外の特別な手当てはしていないということですが、メンテナンスを担当するインテリアグリーンのプロも驚くほど、植物たちはのびのびとよく育っています。普通は冬には実らないといわれるマンゴーも、雪景色のなかで花を咲かせ、立派な果実まで実らせるそう。
その理由を尋ねると、「自然の移ろいに合わせて緩やかに変化する日照、温熱環境が、植物に活力を与えているのではないかと感じています」と弘田さんが話すように、PSマダガスカルの室内は一定の幅の中で温度・湿度に変化が見られます。温熱・湿度環境は機械的にコントロールされていますが、ガラス面が多い室内は、晴れた日には26℃ほどまで室温が上がり、夜や曇りの日には16℃と、ひんやりとした空気に包まれます。また、自然林をお手本に敷地内に植えた木々が、夏の強い陽射しを遮り、冬にはやわらかな光を室内に届けるといった季節ごとの変化も訪れます。
50種類以上ある植物は、陽射しを好むもの、好まないもの、乾燥が好きなもの、逆に苦手なものと多種多彩。それぞれの植物がもつ本来の生命のリズムが、緩やかな幅をもつ気温や日照の変化に適応することで、一つの空間で共存できているようです。
植物に健やかな環境は
すべての生き物を元気に
「私たちは専門家ではないので、植物のためにできることは限られています。しかし、同じ生き物として『こうしたらより心地よいのでは』と感じることには、少しだけ手をかけるようにしています」という弘田さんですが、植物に対する熱意は人並み以上。弘田さんをはじめ、数名の植物好きのスタッフが、日々心がけていることを教えてくれました。
「例えば、自然界に雨が降るように、時々、葉にもしっかり水をまいてあげます。夏には天窓から降り注ぐ強い日射をすだれで遮り、窓を開けて風通しを良くすることもあります。このように、設備だけに頼らず、私たち自身も植物の気持ちに寄り添って、彼らが心地よいと感じる環境を日常的に保つように心がけています。それも、緑が元気に育つ理由の一つかもしれません」。
打ち合わせスペースでもあるPSマダガスカルには、さまざまな来客があります。喘息の持病を持つ方が訪問してきた際に、悩みの種といっていた咳が一度も出ず、この心地よさを参考に生活環境を考え直したいと帰っていったこともあったそう。「その様子を拝見して、植物が元気に育つ環境は、人にも元気を与えてくれることを再確認しました。家で過ごす時間が長い今、健康的な室内環境づくりにも関心が高まっていることも感じます」。
適正な潤いと光、温度、
三拍子そろった生育環境
今回は、PSマダガスカルのメンテナンスを担当するFlower Space Gravelの代表 松田真也さんにも、インテリアグリーン・観葉植物のプロとして、お話を聞いてみました。
PSマダガスカルの良さは、なんといっても湿度管理が徹底されていること。観葉植物の葉先が茶色くなるのは潤い不足のサインですが、ここで育つ植物にはまったく見られません。また、植栽スペースは十分な深さで土が入っているため、大型植物も根張りがよく、水分が過剰にならず、根腐れをおこすこともありません。園芸家の目から見ても、植物にとってこれ以上の環境はないと思います。
当社支店のある紀伊国屋書店の1階は、ガラス張りの空間にピーエスの温水ヒータが設置されています。奇しくも「マダガスカル」とよく似た環境下で、鉢植えの植物の育ちがとてもいいんです。人が触れても安心な温水パネルは、植物にも優しいと再確認しました。
Flower Space Gravel 代表取締役・松田真也さん
PSマダガスカルは、ショールームとして予約制で一般公開もしています。この場所に訪れることで、緑のある暮らしをより豊かにするヒントが得られるかもしれません。
(文/Replan編集部)