いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


今年は全国で寒さが厳しい、久しぶりに冬らしい冬になりました。寒い冬には、日当たりが恋しくなります。前回の平屋でも取り上げましたが、低層住宅専用の地域でも日当たりを確保することは容易ではありません。今回は前回に引き続き、住宅地での日当たりを考えてみることにしましょう。

住宅を建てるときの規制

自分の土地だからといって、好きなように家を建てていいわけではありません。さまざまな法律によって、その土地にどのような建物を建てられるかが決められています。「都市計画法」は地域にどのような種類の建物を建てていいかを定めており、「建築基準法」は、その地域で建てていい建物の形を規定しています。

都市計画法の用途地域

まず都市計画法により、地域の種類が区分されています。「市街化調整区域」は開発が原則禁止されており、建築物を建てられるのは「市街化区域」となります。

さらに用途地域が指定されており、住居・商業・工業といった異なる用途が混在しないよう、別々に指定されています。用途地域は全部で13種類もありますが、今回は一般的な戸建て住宅を想定して、「第一種低層住居専用地域」のみと考えることにします。

建築基準法の集団規定

その地域において建設する際に、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低基準を定めたのが建築基準法です。建築基準法は、周辺に関係のない建物そのものの機能を規制する「単体規定」と、周辺環境に迷惑をかけないための「集団規定」があります。

今回取り上げる日当たり・日影は「集団規定」で規制されているのですが、まずはその歴史を簡単に見てみましょう。

高度成長期にマンション急増

用途地域や建築規制は戦前からありましたが、戦後しばらくまでは大ざっぱなものでした。住居・商業・工業の地域が大まかに分けられ、建物の高さ制限が住戸地域では20mまで、その他では30mまでと、簡単な制限だけだったのです(図1)。

1960年代の高度成長期に入ると、都市部への人口流入が激しくなり住宅需要が急増。マンションも建設ラッシュになり、その数は1968年に約5万棟だったものが1973年には約30万棟にまで、たった5年で6倍に急増します。

図1 住宅の用途と日影規制の歴史
戦前から戦後しばらくは簡単な用途指定と高さ制限しかありませんでしたが、高度成長期のマンション乱立などによる住宅地の環境悪化を受け、都市計画法・建築基準法大改正により、住宅地の環境を守る規制が強化されました。日当たりについては、北側斜線と日影規制が規定されていますが、どれくらい効果があるのでしょうか?
参考文献:日本近代建築法制の100年 日本建築センター

「日当たりを守れ」日照権運動が盛んに

それまで戸建て住宅が並んでいた住宅地に突然、制限いっぱいの高さ20mのマンションが建つようになります。北側の家はそれまでの日当たりを奪われ、一年中暗く寒い環境に暮らすことを余儀なくされました。これはガマンならないと、日当たりの権利「日照権」を守るため、マンション建設への反対運動が盛んになりました。

この問題に対応すべく、1968年に都市計画法が制定、1970年に建築基準法が大改正されました。戸建て住宅だけが建てられる第一種住居専用地域が定められ、日当たりを守るために「北側斜線」の制限も導入されました。

図2 日影規制はマンション専用?
1976年に導入された日影規制は、3階建て以上の建物を規制することで、マンションの日影問題の解決には役立ちました。しかし、2階建ての戸建て住宅は日影規制の対象ではありません。

「日影規制」で問題は解決したのか?

しかし北側斜線導入後も、日照権をめぐる運動や裁判は減りませんでした。そのため、さらに厳しい規定として、1976年の建築基準法改正により「日影規制」が導入されました。新しく建てる建築は、北側の隣地に落とす日影が少なくなるよう建物の高さや形を抑えなければならなくなりました。この日影規制の導入後は、マンション反対運動は沈静化し、日照権という言葉もあまり聞かれなくなりました。

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