先日の記事では、玄関やLDK、水まわりなどのスペースを共有しつつ、上下で親世帯と子世帯を分離したタイプの二世帯住宅をご紹介しました。今回も引き続き、上下分離型の間取りをご紹介しますが、前回と大きく違う点があります。それは玄関も居住スペースも上下で完全に分けたつくりの住まいであること。

「上下完全分離型」の二世帯住宅は、玄関も、LDKと水まわりのスペースや設備などもそれぞれの世帯に必要なので、一部共有タイプと比べて広い床面積が必要です。またその分、建築コストの負担も増えます。

一方で日常の暮らしの面に目を向けると、お互いの生活リズムやライフスタイルの違いを気にせずに過ごしやすいので、「近くに暮らす安心感や便利さを持ちつつ、それぞれの暮らしを尊重する」という距離感が保ちやすいといえるでしょう。

それでは、上下完全分離タイプの二世帯住宅のプランでは、どのようなことに注意する必要があり、どんな工夫やアイデアがあるのでしょうか。リプランで取材した3つの実例からぜひ、そのヒントを見つけてください。

※掲載方法の都合上、図面の縮尺は一定ではありませんのでご了承ください。

各世帯のリビングはずらして配置。
配管には断熱材を施し吸音性を向上

■家族構成/夫婦30代、子ども2人、母

住み慣れた家で、2世代同居をしていたTさんご家族。お子さんたちの成長とともに二世帯住宅へと気持ちが向き、増築・リフォームを考えていましたが、リフォームするには改修規模や費用などがかさむことが判明し、新築することになりました。

新居は、生活時間の違いへの配慮から、水まわりの音や子どもの足音などが階下に響かないように、配管にグラスウール断熱材を施して吸音性を上げたり、リビングを1階と2階で異なる場所に配置するなどの工夫が施されています。お母さんの住む1階のウッドデッキと2階の広いバルコニーは、お子さんたちの格好の遊び場。Tさんやお母さんだけでなく、幼い子どもたちにまで配慮が行き届いた、思いやりにあふれる二世帯住宅です。

サイディングと道南スギを使った重厚感のある外観のTさん宅
サイディングと道南スギを使った重厚感のある外観のTさん宅
板張り玄関ポーチに合わせて木製ドアを採用した。左側が子世帯、右側がお母さんの住居への入り口
板張り玄関ポーチに合わせて木製ドアを採用した。左側が子世帯、右側がお母さんの住居への入り口

1階のリビングは、ホワイトが基調で明るく。お母さんが希望したアイランドキッチンでスッキリ
1階のリビングは、ホワイトが基調で明るく。お母さんが希望したアイランドキッチンでスッキリ
1階のリビングにはインナーテラスがあり、ウッドデッキへと続く仕様。ウッドデッキは、孫たちの遊び場にもなっている
1階のリビングにはインナーテラスがあり、ウッドデッキへと続く仕様。ウッドデッキは、孫たちの遊び場でもある
2階の子世帯4人家族のリビングは、広く見えることにこだわり、天井高を3mにした
2階の子世帯4人家族のリビングは、広く見えることにこだわり、天井高を3mにした
リビングに隣接した広いバルコニーは12畳。リビングを広く見せる視覚的効果もある
リビングに隣接した広いバルコニーは12帖。リビングを広く見せる視覚的効果もある

■設計・施工/(株)キクザワ
<Replan北海道 vol.125 掲載>

子世帯専用と二世帯共用の2つの玄関。
省エネ設計で二世帯でも光熱費を安く

■家族構成/夫婦30代、子ども2人、母

Hさんご家族がお母さんと暮らす住まいは、子世帯専用と共用の2つの玄関があるつくりで、必要に応じて使い分けられることが特徴です。共用の玄関ホールから扉1枚でつながるお母さんの居住スペースは、段差をなくし、生活の動線をコンパクトに集約。料理や洗濯といった家事も楽にできるように配慮しました。

一方、Hさんご家族が暮らす2階は、ゆったり暮らせる広さを確保。15帖ものLDKには大きな窓を設け、開放感を演出しています。どの世帯も快適に暮らせるよう性能面も重視。ZEH仕様+太陽光発電での創エネ、そして断熱性能の強化とエアコンの暖冷気の循環を考えた設計で、省エネ性の向上を図りました。おかげで光熱費はかなり抑えられたそうで、ご家族も大満足な省エネ住宅となりました。

横に長い形状のHさん宅。外観は、2階のガルバリウム鋼板と1階のスギ板張りの対比が美しい
横に長い形状のHさん宅。外観は、2階のガルバリウム鋼板と1階のスギ板張りの対比が美しい
重厚感と木の優しさを兼ね備えた大きな木製引き戸が印象的な共用玄関
重厚感と木の優しさを兼ね備えた大きな木製引き戸が印象的な共用玄関
共用玄関からは階段を上がればHさん世帯、右手にはお母さんが暮らす居住空間がある
共用玄関からは階段を上がればHさん世帯、右手にはお母さんが暮らす居住空間がある

1階のコンパクトなリビング。5種類の県産材を使った建具の裏が寝室になっている
1階のコンパクトなリビング。5種類の県産材を使った建具の裏が寝室になっている
1枚板のテーブルに大きな窓。キッチン奥の窓からも陽が射して明るい2階の子世帯のリビング
1枚板のテーブルに大きな窓。キッチン奥の窓からも陽が射して明るい2階の子世帯のリビング
キッチンからリビング方向。テレビの奥は子ども部屋として区切る予定
キッチンからリビング方向。テレビの奥は子ども部屋として区切る予定

■設計・施工/高山建築
<Replan青森 vol.6 掲載>

増築スペースに階段を移動し、
1階の空間を無駄なく使えるよう配慮

■家族構成/夫婦30代・20代、両親

農業を営むSさん。結婚を機に家づくりを考えましたが、敷地や予算の関係上、新築は現実的ではありませんでした。そして実家のリフォームがSさんのご両親のかねてからの希望でもあったので、両方の願いが叶うよう、築45年の実家を二世帯住宅へリノベーションしました。

新居は、親子の生活空間を上下で完全に分けるタイプ。1階に親世帯、2階に子世帯のそれぞれのスペースを配置し、建物の基礎と構造だけを生かして玄関側に約1間分増築し、2つの世帯をつなぐ半屋外空間を設けました。子世帯の移動のための階段は増築した空間に移すことで、より開放的な室内空間が確保できました。軽やかな意匠性を備えた二世帯住宅で、Sさんご一家の新しい暮らしが始まっています。

増築した半屋外空間のポリカーボネートと黒色ガルバリウム鋼板のコントラストが目を引く外観
増築した半屋外空間のポリカーボネートと黒色ガルバリウム鋼板のコントラストが目を引く外観
増築された半屋外空間は風除室、テラス、アクセス空間、農家玄関を兼ねる多目的空間。風除室から延びる階段を上ると、子世帯の生活エリア
増築された半屋外空間は風除室、テラス、アクセス空間、農家玄関を兼ねる多目的空間。風除室から延びる階段を上ると、子世帯の生活エリア
建物の南西面に増築された半屋外空間の外壁には、ポリカーボネートを採用。厳冬期でも良く晴れた日には、陽射しの効果で室温は20℃前後に保たれるという
建物の南西面に増築された半屋外空間の外壁には、ポリカーボネートを採用。厳冬期でも良く晴れた日には、陽射しの効果で室温は20℃前後に保たれるという

1階の親世帯のリビングに添って土間空間を配した。出入りがしやすいよう表・裏の2方向から半屋外空間へつながる
1階の親世帯のリビングに添って土間を配した。土間空間は、出入りがしやすいよう表・裏の2方向から半屋外空間へつながる
2階子世帯の明るいダイニング・キッチンは構造現しで、屋根なりの高い天井が一層の開放感を与える。床下には、1階の親世帯に配慮して厚手のスタイロフォームを入れ、防音処理を施している
2階子世帯の明るいダイニング・キッチンは構造現しで、屋根なりの高い天井が一層の開放感を与える。床下には、1階の親世帯に配慮して厚手のスタイロフォームを入れ、防音処理を施している
ダイニングの外には、半屋外テラスが。大窓の開閉で室内の温熱環境がコントロールできる。気候や天気が良い日は、朝食や晩酌を楽しむことも
ダイニングの外には、半屋外テラスが。大窓の開閉で室内の温熱環境がコントロールできる。気候や天気が良い日は、朝食や晩酌を楽しむことも

■設計/高木貴間建築設計事務所
■施工/(株)京田組
<Replan北海道 vol.126 掲載>

現在発売中の最新号「Replan北海道vol.130」と10/21(水)発売の「Replan東北vol.70」では、さまざまな「新しい二世帯住宅のカタチ」を紹介しています。ぜひ書店やコンビニ、リプランのWebサイトでご覧ください!

(文/Replan編集部)

こちらも併せてご覧ください↓
・祖母や兄弟姉妹も一緒に暮らす。「多世帯住宅」の間取り集
・ほどよい距離感をつくる。「同居型二世帯住宅」の間取り集
・お隣さんのような感覚で一緒に暮らす。「分棟型二世帯住宅」の実例集
・3タイプの違いは何?各二世帯住宅のメリット・デメリットと間取り集

Replan北海道 vol.130
2020年9月29日(火)発売

北海道内の主な書店やコンビニのほか、
Replanの販売ページamazonfujisan
オンラインでもご購入いただけます。

Replan東北 vol.70
2020年10月21日(水)発売
東北6県の主な書店やコンビニのほか、
Replanの販売ページamazonfujisan
オンラインでもご購入いただけます。