さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
新型コロナウイルスが猛威を振るい経済活動も極端にしぼむ中、大変な苦労をされている方も多いのではないかと思います。今回は、新型コロナウイルスに関する最近の動向と効果的な予防方法、そして急増している在宅勤務が家づくりに及ぼす影響について、考えてみることにしましょう。
新型コロナウイルスの広がり
今回のコロナウイルスによる症状は、2020年1月に中国での感染が報道され、特に3月以降に全世界で急激に広がりました。このウイルスは、無症状の潜伏期間が長いこと、感染者が発症前にウイルスを拡散するスプレッダーになってしまうこと、ウイルスの生存時間が長いことなど、隔離が難しく感染が広がりやすい特徴があるようです。
症状としては、多くの場合は発症してもごく軽症で終わるようですが、糖尿病や肺疾患がある場合には劇症化することが多く、医療機関に大きな負担をかけ医療崩壊のリスクが高いのも難点です。
このウイルスはまだ分からないことが多く、ワクチンが未だに開発されていないことから、各国は医療崩壊を防ぐべく、感染者の急増を防ぐ手段を尽くしています。日本でも、4月7日に緊急事態宣言が出され、国民に感染拡大防止への協力が要請されました。
密閉・密集・密接の三密を防げ!
政府は、厚生労働省のホームページなどを中心に、コロナウイルスに関する最新情報を提供しています。まだまだ未知の要素が多いウイルスだからこそ、専門家の信頼できる情報をまずチェックするべきでしょう(図1)。
また政府は、感染拡大防止のためのさまざまな行動を呼びかけていますが、その中で「換気の悪い密閉空間」「多数が集まる密集場所」「間近で会話や発声をする密接場面」の三密を避けることが推奨されています(図2)。この中で住宅に関係が深いのは「換気」ですが、ウイルス感染の予防にどれくらい効果的なのでしょうか。
ウイルスの感染ルートは「飛沫」「接触」「空気」の3つ
ウイルスには数限りない種類がありますが、通常の感染ルートは3つとされます。感染者が咳やくしゃみをすることでまき散らされた飛沫を吸い込む「飛沫感染」、感染者が触った物体表面に残ったウイルスが手につき顔から侵入する「接触感染」、そして空気中を漂うウイルスを吸い込む「空気感染」です(図3)。
従来のインフルエンザウイルスについては、ほとんどは「飛沫感染」と「接触感染」によって広がるとされています。飛沫感染を防ぐために感染者はマスクをすること、飛沫は粒子が大きく短時間で床に落下するので感染者と距離を空けることが有効です。接触感染については、とにかく手をマメに丁寧に洗うことです。ウイルスがついた手で顔を触ることで感染する場合が非常に多いので、「ハンド・トゥ・フェイス」の行動を絶対にしないことが大鉄則です。
コロナウイルスでも「飛沫」「接触」感染がほとんど
コロナにおいても、インフルエンザと同様に感染ルートのほとんどは「飛沫」「接触」とされています。そのため、感染者のマスク着用、飛沫が届かない距離(最低1メートル・できるだけ2メートル以上)を空けること、手をよく洗うことが主要な対策になります。
空気感染はどれだけ起きる?
飛沫は咳やくしゃみによる比較的大きく(5マイクロメートル以上)落下しやすい粒子ですが、会話などで生じる細かい唾液の粒子をエアロゾル、飛沫が乾燥してより小さい粒子となったものを「飛沫核」と呼びます。エアロゾルや飛沫核は粒子が細かく長時間漂うため、高濃度に汚染された空間に長く滞在すると吸い込んで「空気感染」のリスクが高まります。ただし、この空気感染がコロナでどこまで発生しているかは結論がまだ出ていないようです。
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