日本には古い建物がたくさん残っていますが、フィンランドにも約100年前に建てられた木造住宅群が残る地域があります。街の名前は、キャプラ(フィンランド語でKäpylä)。今も住民が暮らし、リノベーションを重ねながら住み継がれています。

この街の成り立ちには、当時のヘルシンキの住宅環境が大きく関わっています。計画の決定が下されたのは、フィンランドがロシアから独立した2年後の1919年のこと。この頃は都市部への人口集中がひどく、ヘルシンキ市では当時の人口20万人に対して、その5%にあたる1万人分の住宅が不足していました。

そこでイギリスで生まれ、当時ヨーロッパ諸国の間で実践する動きのあった「ガーデンシティ構想(田園都市構想)」を取り入れ、ヘルシンキ中心部から約5kmのキャプラに、労働者階級のための緑豊かな木造住宅街をつくることになったのです。

ただこの地域は当時としては中心部から遠すぎました。そのため計画では、トラム(路面電車)の設置を並行して行うことで開発が決まりました。このトラムは現在でも活躍していて、1番トラムに乗車するとヘルシンキ中央駅から30分ほどでキャプラに着きます。

今も住民の大事な足である1番トラム

住宅の建築は1920年に着工。工期短縮のため、それまでの伝統的な建て方を一部規格化し、コーナーに柱を立て、その柱に縦にほぞをきり横材を落とし込むというログハウスの施工システムが採用されました。そのためここはフィンランドで初めてのプレハブ住宅地域と見なされています。

23ヘクタールの土地に168戸が建設され、そのほとんどは2階建て。1つの住戸に4世帯というのが基準です。

当時の面影を今に伝える木造住宅

外壁は当時と全く同じ色に塗るというルールになっています。家の中はある程度自由に手を入れることができますが、外観は変えることができません。外観を統一することで、景観が保存されています。

北欧らしさが感じられるシックな赤色の木外壁

ガーデンシティ構想に基づいているため、数棟の建物が中庭を囲んで配置されているのも大きな特徴です。当時は食料を確保する家庭菜園として、現在では美しい庭として利用されています。

住宅は1920年代に建てられたものなので、リノベーションが必須。1970年代には第一次大規模リノベーションが行われ、トイレ・バスなどの水まわりの問題が解消されました。現在は、第二次大規模リノベーションの時期を迎えています。

これは基礎部分のリノベーション中の様子。古くなって傷んだ部分は交換します(写真は2017年撮影)

歩いてみるとよくわかるのですが、ここはガーデンシティ構想の理念が息づく自然豊かで閑静な住宅地です。1950年代には「すべて解体してコンクリート住宅を建てよう」という案が持ち上がったそうですが、多くの市民の反対で保存することになりました。

キャプラは、100年前の街並みを住みながら残していくのはとても素敵なことだと感じさせてくれる街です。