事例③ 備蓄の水を蓄熱に活用

写真5の物件は、パッシブ手法により暖房負荷の削減を目指した茨城県のオフィスの例である。南面に大きな開口を有し、取り込んだ日射を窓際や室内に配置したペットボトルの水で蓄熱している。水は熱容量が大きく入手が簡単で量の調整も容易であり、光も通すなど多くの長所がある。もちろん、非常用の備蓄としても有効である。

写真5 P.V.ソーラーハウス協会本社棟1階における水蓄熱の様子
写真5 P.V.ソーラーハウス協会本社棟1階における水蓄熱の様子。Q値0.99と高い断熱性により室温は外気温度より15℃程度高く、また蓄熱容量の大きい1階では2階よりも温度変動が抑えられていることが分かる
事例④ 北海道で薪ストーブ +潜熱蓄熱壁仕上げ

薪ストーブはCO2排出が少なく間伐材の活用にも有効であり、なによりそのよい雰囲気から近年注目されている。一方で微妙な調整が困難であり、フル燃焼時には本体の表面温度は300℃を超えてしまう一方で、薪の投入を止めると火はすぐに消えてしまう。そのため燃焼時にはオーバーヒート、火が消えた後は急に冷え込む、不安定な温熱環境になってしまうことが少なくない。薪ストーブは一見素朴に見えるが、単純な分だけ制御は難しい。なかなかの「暴れん坊」なのだ。

この制御性に乏しい薪ストーブに蓄熱を組み合わせることで、温熱環境の安定性を改善させることが可能となる。薪ストーブ自体に石などの蓄熱体を持たせる方法もあるが、ここでは潜熱体により内壁仕上げに熱容量を持たせた写真6の例を取り上げる。

写真6−1 潜熱体により内壁仕上げに熱容量を持たせた事例
写真6−1 潜熱体により内壁仕上げに熱容量を持たせた事例
写真6−2 熱画像
写真6−2 潜熱体により内壁仕上げに熱容量を持たせた事例の熱画像

本物件では潜熱蓄熱体(PCM)をマイクロカプセルに封入し、漆喰に含有させて壁内側に塗りつけている。「潜熱」蓄熱体とはパラフィンや蝋の一種のようなもので、特定の温度帯(融点)において集中的に吸熱・放熱を繰り返す特性がある(図5)。コンクリートや水は「顕熱」蓄熱のため熱が貯まると温度が上昇、熱が抜けると温度が低下してしまうため室温変動をなくすことは難しい。一方の潜熱は特定の温度帯で吸放熱を繰り返すため、室温の安定度が高い。

図5 壁の漆喰仕上げ材に潜熱蓄熱体カプセルを含ませた物件
図5 壁の漆喰仕上げ材に潜熱蓄熱体カプセルを含ませた物件の例。オーバーヒートしやすい薪ストーブの熱を吸放熱することで、室温を穏やかに安定させる効果がある

本物件では朝夕に薪ストーブを焚くだけで、20℃近辺の安定した温熱環境を得ることができている。暴れん坊の薪ストーブを潜熱蓄熱を活用した建物が上手に受け止めたといえる。繰り返すが、薪ストーブは素朴であっても簡単な暖房設備では断じてない。熱の流れや蓄熱を含め、高度な設計が必要なことは覚えておこう。

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