人体からの放熱のルートはたくさんある!
人体は外界に熱を放出する、様々な放熱手段を持っています。図5に、その主なルートを示しました。
放熱ルートは、放射・対流など水の蒸発によらない「乾性放熱」と、不感蒸泄や発汗による「湿性放熱」、この2つに大きく分けられます。呼吸による放熱もありますが、量が少ないので以下では取り上げません。
空気や周辺物体の温度が低い冬期では、放熱は対流(→周辺空気)と放射(→周辺物体)といった乾性放熱で十分まかなえます。むしろ放熱が大きくなりすぎて寒さが問題なのは、13回目の冬の快適性で考えた通りですね。
一方で、夏には空気や周辺物体の温度が上昇して対流・放射による乾性放熱が減少するため、放熱不足になりがちです。よって対流・放射以外のルート、湿性放熱が重要になります。
湿性放熱は、皮膚にかいた汗が蒸発して気化熱を奪って体を冷やすことです。この汗をかいて体を冷やす「ウェットな冷却力」こそ、人類が暑いアフリカを生き延びることができた秘密なのです。
湿性放熱の放熱量が少なく、周辺空気が乾燥している場合は必要な汗の量が少ないので、汗は気づくことなくすぐに蒸発します。これを「不感蒸泄」といいます。スポーツ時などに湿性放熱量を増やすために発汗量が増加したり、周辺空気の湿度が高くて汗の蒸発がすすまない場合は、汗は皮膚の表面を濡らした後で蒸発します。これを「発汗放熱」といいます。
同じ汗の蒸発でも、不感蒸泄では皮膚は乾いたままで汗に気づきませんが、発汗放熱では皮膚は濡れるので汗をかいたと気づきます。発汗放熱が多い状態は皮膚の多くが汗で濡れているため、一般に気持ち悪く不快になりがちなことを、覚えておきましょう。
結局、夏を涼しく過ごすためには?
PMVが表す人体の代謝熱と放熱のバランスと、人体の放熱ルートを理解できれば、夏を涼しく過ごす方法は簡単に分かります。つまり代謝熱=放熱にバランスさせるため、代謝熱を減らして放熱量を増やせばよいのです。そのための方法を、図6にまとめてみました。
熱バランスの片側にある代謝熱を減らすとなると、これは活動量を減らすしかありません。つまり暑い時はあくせく動くのではなく、のんびりと休憩するのが一番ということですね。古来より、夏の昼間はのんびり過ごし昼寝をする習慣は、日本をはじめ蒸暑地の多くで見られます。図7に、行動による活動量の違いを示しました。
のんびりして活動量を下げれば、それにともなって体内からの代謝熱は減るので熱バランスが改善され、涼しく感じられるのです。
それではもう一方の放熱量を増やすには、どうすればよいのでしょう。前述の通り、周辺の空気や物体が高温で、対流(→空気)・放射(→周辺物体)による乾性放熱は不足がちです。
一番簡単なのは衣類を脱いで、着衣量を下げることです。着衣量が減ると放熱の抵抗が小さくなるので、着衣表面温度が上昇します。図8に着衣量を変えた場合の、赤外線画像を示しました。薄着にすると、表面温度が高温になるため、体の表面温度と周辺空気・物体との温度差が大きくなり、対流・放射による放熱量が増加するのです。
着衣を減らすと、汗が乾いた後の水蒸気も肌からスムーズに抜けていきます。最近の下着では、この水蒸気の抜けが良い透湿抵抗の小さい素材を使ったものが増えているようです。
扇風機やうちわで風を起こすのもよい方法です。人体の周りの温まった空気層を風が吹き飛ばすため、対流による放熱を増加させることができます。
もちろん、エアコン冷房をオンにすれば、空気温度(≒放射温度)を下げることで、対流・放射による乾性放熱を手っ取り早く増やすことができます。
またエアコンを除湿運転にすれば、空気湿度が下がります。湿度が低くなると汗が乾きやすくなるため、発汗放熱が不感蒸泄にかわるため、皮膚が乾いて快適性がアップするのです。
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