対流と放射が放熱の2大ルート

周辺環境の4要素は、人体からの放熱量に大きな影響を与えます。特に室内でのんびり過ごすような穏やかな活動状態では、呼気や発汗蒸発による放熱量は小さくなります。そのため、室内での人体からの放熱は、対流と放射の2ルートによる放熱がメインとなります。前者は周辺の空気へのシンプルな放熱です。後者は人体の周りを包む床壁天井への遠赤外線による放熱であり、こうした周辺物体の平均温度を「放射温度」と呼んでいます。

温度差が大きいほど放熱量は増える

対流による放熱は、着衣表面温度と空気温度との差が大きいほど大きくなります。同様に、放射による放熱は着衣表面温度と放射温度との差が大きいほど大きくなります。図4に、空気温度・放射温度がいずれも20℃・22℃・26℃の場合を示しました。

図4 放熱過大は寒い 放熱過小は暑い
図4 放熱過大は寒い 放熱過小は暑い
代謝率や着衣量が同じであっても、周辺の空気温度や放射温度(周辺物の平均温度)が異なれば、放熱量は異なってきます。寒い環境(左)においては着衣表面温度と空気・放射温度の差が大きくなるので対流・放射による放熱が増加し放熱過大になり寒く感じられます。逆に高温の環境では温度差が小さくなるために放熱過小となり暑さを感じるのです。なお簡単にするため、以下では呼気や発汗による放熱は「その他」に、また熱量Wは皮膚の単位面積あたりの値(W/㎡)を示します。

20℃の環境では着衣表面温度との差が大きく(25.8−20℃=5.8℃)対流・放射ともに放熱が大きいために、放熱過大で寒さを感じます。26℃の環境では着衣表面温度との差が小さいために(29.2−26℃=3.2℃)放熱量が減少し、放熱過小で暑さを感じることになります。

22℃の環境では温度差が中程度となり(26.9−22℃=4.9℃)、代謝熱と放熱量とがほぼ同じとなりバランスがとれることで、熱的に快適な環境となっていることが分かります。

空気温度で対流、放射温度で放射を制御

PMVモデルにおいては、放熱がどのルートで行われているかは問題となりません。放熱量の合計が代謝熱と釣り合っていればよいことになります。そのため熱バランスがとれた状態は、図5に示すようにいくつもあり得ることになります。

図5 熱バランスのとり方はよりどりみどり
図5 熱バランスのとり方はよりどりみどり
住戸内での放熱のメインとなるのは、対流と放射の2ルートです。それぞれ周辺の空気温度と放射温度によって放熱量が決定されます。そのため、空気温度と放射温度を別々に制御することで、放熱の合計をコントロールして熱バランスを成立させることが可能です。左は空気を温める場合、右は採暖や床暖房を用いる場合になります。図左:エアコンなど空気暖房でできる環境、図中:高断熱・高気密の住宅では空気温度は放射温度に近づく、図右:ストーブや床暖房など放射暖房でできる環境

空気温度を上げれば対流分が減少し、放射温度を上げれば放射分が減少します。つまり、空気・放射の温度のどちらかだけ操作して熱バランスを成立させる、つまりPMVゼロの状態をつくり出すことは可能に見えます。果たして、それは快適な環境といえるのでしょうか。

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