「北大総合博物館の前庭を、照明付き家具でライトアップしたい!」そんなプロジェクトがあると聞いて北海道大学へ。

今回は「kitayori – 北、便り- 」特別編として、プロジェクトに関わる学生、先生、民間の協力会社の方に取材した様子をレポートします。

300万点もの収蔵品を有する博物館

北海道大学総合博物館は1999年に開館。数多くの研究の歴史を伝えるとともに、最先端の研究を実験資料や映像で紹介している博物館です。300万点に及ぶ学術標本や資料を整理・保存しながら、工夫を凝らした展示を行っています。

入場料無料を維持しながら、夏季の金曜日は21時まで開館するナイトミュージアムを実施するなどして、市民に開かれた学術の入り口を目指して運営されています。

北海道大学総合博物館・ライトアッププロジェクト
取材当日行われていた企画展「視ることを通して」オープニングセレモニーの様子

デザインの力で、キャンパスを多くの人の居場所に

夜間の開館では、ドリンクを片手にコンサートやセミナーを楽しめる企画など、市民が気軽に参加できる試みがなされていますが、一方で、大学内の通路の暗さ故、場所や開館していることがわかりにくいという声もあるそう。

せっかくの展示や企画を数多くの人に見てもらいたい、よりよいキャンパスにして人々の憩う居場所にしたい、という学生の思いから、2017年の春に今回のプロジェクトがスタート。工学研究院建築デザイン研究室所属のプロジェクトチーム11人で試行錯誤の結果、「前庭に照明付きの家具を置いてライトアップする」というアイデアが出てきました。

北海道大学総合博物館・ライトアッププロジェクト
大学院 工学院 建築都市空間デザイン専攻 建築デザイン学研究室の学生がプロジェクトチームを組んだ。左から金子瑶さん(修士課程1年)、押川快さん(修士課程2年)、羽田崇人さん(修士課程2年)

「夜間に限らず、大学が開かれた場所としてたくさんの人に親しみを持ってもらうためにどうしたらよいか考えたときに、そこが『居場所』になるようなことを試みたかったんです。木という素材であったり家具という身近なものを置くことで、それが実現するのではないかと思いました」と押川さんは話します。

照明付き家具でのライトアップ

チーム内で30案ほど出たデザインの中から、実際につくることが決まったのが3案の照明付き家具。木材は音威子府村にある北海道大学の研究林で択伐されたトドマツを使ってつくる計画です。

研究林から切り出される木材は製材サイズが決まっているため、その制約の中でいかに魅力的かつ機能的なものがつくれるかが鍵。プロジェクトのメンバー全員でデザインをつくりあげていったといいます。

北海道大学総合博物館・ライトアッププロジェクト
連続する木のラインが美しい立方体の照明。連続する木のイメージでウッドデッキとの親和性を持たせている

北海道大学総合博物館・ライトアッププロジェクト
製材サイズの制約がありながら、有機的に見せるための工夫が凝らされた行灯型の照明

北海道大学総合博物館・ライトアッププロジェクト
掲示板の機能を持った照明

学生の想いを一緒に実現したい

「2016年に博物館がリニューアルした時にできた入り口のウッドデッキも、学生のデザインなんです。それとの連続性も考えたときに、木材でイメージの近いものを置くほうがいいと思いました。ただ、同時に学生だけでは実現できないとも考えていて、先生や民間の企業の方に協力していただくことで、だんだんとプロジェクトの形が見えてきたんです」と羽田さんが話すように、総合博物館の山本准教授をはじめとした教職員や、民間企業もこのプロジェクトをバックアップしています。

「学生が『やりたい!』という熱意はすごく嬉しいし、できるだけ応援したい。そのために力を貸してくれる渡邊社長のような方は貴重な存在です」という山本准教授の言葉に、「理想と現実や資金面など、なかなかシビアな面もありますけど」と笑う札幌杢幸舎の渡邊社長。自社の持つ家具づくりのノウハウや技術を、プロジェクトに注ぎ込んでくれる人物です。

「もちろん出てきたデザインは大事にしつつ、実務の経験のない学生が気が付かないような細かい技術面はこちらからどんどん提案します」と言いながら、当日もデザインを調整した試作品を持参し、新しいアイデアを提案する姿が印象的です。

北海道大学総合博物館・ライトアッププロジェクト
札幌杢幸舎の渡邊社長(左)と総合博物館の山本准教授(右)

なるべくたくさんの人の手で広く伝わることを目指して

2017年の11月から中心メンバーになった金子さんは、「普段、勉強する中では学びきれない、プロジェクトを進めていくということの難しさを学ぶと同時に、デザインしたものが実物になることの喜びも感じています。家具だけでなく、プロジェクトのロゴもデザインしたり」と、真剣な眼差しで話します。

北海道大学総合博物館・ライトアッププロジェクト

プロジェクトの現時点での目標は、半年後に照明を設置すること。現在はデザインの詰めと資金集めのためのクラウドファンディングが行われています。

「クラウドファンディングという手法を使うのは、自分たちだけではなくより多くの人と一緒につくり上げたいという思いがあるからです。予算がひとつだとただつくって置く、という作業になってしまいそうで」と羽田さんがいうように、プロジェクトは学内から学外へと広がりつつあります。

少しずつかたちになりつつある「北大総合博物館を明るく居心地のいい場所に」という想いと、たくさんの人を巻き込みながらさらに発展していきそうな気配。今後の動きが楽しみなプロジェクトです。

◎北海道大学総合博物館
https://www.museum.hokudai.ac.jp/
◎札幌杢幸舎
http://www.woodland-sapporo.com/
◎クラウドファンディングサイト「Makuake」
https://www.makuake.com/

(文/Replan編集部)