床下暖房という方式

北海道では、今や基礎断熱住宅がほとんどです。床下の水道管などの凍結の心配がなくなることが最大の理由でしょう。北東北地方も同様です。それより南では凍結の心配がない地域が増えて、基礎断熱は不要になります。基礎断熱住宅では床下と室内は空気が対流するように床にガラリを設けることが原則ですが、こうしても床下の温度はどうしても室内より低くなり床が冷たく感じられることが多いのです。これを緩和するため、ストーブの温風を床下に吹き込む方法が試みられました。これがなかなかよくて、ストーブを、やがて温水放熱器を使う方式に変えてきました。私は、メーカーに床下設置専用の放熱器を商品化してもらったのです。寒冷地では、やはり温水暖房が主流でした。こうして図6のシステムができ上がってきたのです。

しかしこの方式は、南の温暖地では温水暖房が普及していないため、コストがとても高くなってしまいます。また、灯油やガスのFFストーブもあまり普及していなかったため、エアコンを床下に設置する方式が始まったようです。床下のエアコンは暖房専用で、室内には2~3台のエアコンを冷房用に設置します。夏には床下のエアコンを除湿用に弱く運転し、床下の結露を防ぐ場合もあります。

これがなかなかうまくいったのです。特に熱負荷の小さいQ1.0住宅では、2階にはほとんど暖房器は不要で、それでも寒いときは、2階のエアコンで暖房すればいいという考え方です。この方式が段々北上し、今では北海道でも取り入れられ始めているようです。

寒冷地は床下エアコンよりFFストーブ床下暖房

床下エアコンの場合、床下の基礎を柱状基礎にして温風が拡がるようにするといいという考え方があります。普通の基礎ではうまくいかないと考えられています。こうした相談が新住協の会員から寄せられ、私は、図7のように、エアコンまわりを床のレベルで気密に仕切り、エアコンのファンの圧力が床下全体にかかる方式を提案し、これでうまくいくようになりました。さらに、図8のブースターファンを、エアコンからの空気の流れから外れた、遠い床ガラリに設置すると、より床の温度分布が均一になり、温風が吹き出してくるようです。

図7 エアコン1台による床下暖房
暖房のみのためにエアコンを床下に設置する。寒冷地ではエアコンの効率が悪くあまりおすすめしない。温暖地に適する
①壁掛けエアコン ②自然吹き出しガラリ ③ ファン付き吹き出しガラリ ④ 遮熱板 ⑤ 温風ダクト(パイプファン付き)
図8 床ガラリに取り付けるブースターファン(デルタ電子)
図8 床ガラリに取り付けるブースターファン(デルタ電子)

しかし私は、寒冷地ではエアコンより灯油のFFストーブで同じシステムを組む方がいいと考えています。エアコンは、寒冷地の外気温が低いときは、室外機で凍結が起きます。これを解凍する機能を強化したのが寒冷地エアコンですが、そもそも冬はエアコンの暖房効率が極端に悪くなり、暖房能力も低下します。寒くなるほど暖房出力が低下するのです。さらに、この解凍に使う電力はカタログに記載されている効率の計算には入っていません。この結果、灯油ストーブの方がむしろ暖房時のCO2排出量は少なくなる可能性が高いのです。図9のようにエアコン床下暖房と全く同じように灯油またはガスのFF式温風ストーブを設置します。FFストーブの吹き出し温度はエアコンよりかなり高いので、ストーブ付近の床下には断熱材で遮熱板を設置した方がいいと思います。エアコンの物足りなさが解消し、寒波がきても十分な暖かさを期待できます。

図9 FF式温風ストーブ1台による床下暖房<br>改めてこの方式を考えてみると、ストーブまわりに仕切り板を 設置して、ファン付きガラリも併用すると、とてもよい環境ができる。ストーブ近傍には必要に応じて遮熱板を設ける方がよい<br>①温風式FFストーブ ②自然吹き出しガラリ ③ファン付き吹き出しガラリ ④遮熱板 ⑤温風ダクト(パイプファン付き)
図9 FF式温風ストーブ1台による床下暖房
改めてこの方式を考えてみると、ストーブまわりに仕切り板を 設置して、ファン付きガラリも併用すると、とてもよい環境ができる。ストーブ近傍には必要に応じて遮熱板を設ける方がよい
①温風式FFストーブ ②自然吹き出しガラリ ③ファン付き吹き出しガラリ ④遮熱板 ⑤温風ダクト(パイプファン付き)
図10 床下暖房用FF温風式灯油ストーブ
図10 床下暖房用FF温風式灯油ストーブ
左:サンポット 右:コロナ
左:サンポット 右:コロナ
図11 ストーブ1台暖房用FFストーブ
図11 ストーブ1台暖房用FFストーブ
左:サンポット 右:コロナ
左:サンポット 右:コロナ

床断熱住宅なら、FFストーブ1台で全室暖房が可能?

図1の暖房方式を行った当時のQ1.0住宅は、快適性が劣っていました。しかし当時の高断熱住宅のレベルと比べ、今のQ1.0住宅は、熱損失が半分ぐらいになり、窓も随分性能が上がりました。ここで、もう一度その可能性を試してみたいと思っています。階段から降りてくる、2階で冷やされた空気は昔の場合に比べてずっと温度が高くなっているはずです。

総2階建てのコンパクトでローコストなプロトタイプ住宅。この連載第11回で紹介した2.5間×6間の住宅が札幌に建設されることになり、ここでこの方式(図12)を検証することになっています。結果をお伝えするには来年の冬を待たなければならないのですが、相当なコストダウンが期待できると思っています。

図12 床断熱住宅のストーブ1台暖房<br>30年前の高断熱住宅ではこの方式は、上下温度差が多少残り、より快適な方式を求め、あまり普及しなかった。しかし、現在のQ1.0住宅では、熱損失が当時より半分近くになり、2階で冷やされてストーブまで戻ってくる空気の温度がそれほど低くならないことが期待される。ストーブ近辺に1坪程度の吹き抜けを設け、スノコ敷きとし、2階との対流をスムーズにする。ここに何か敷物を敷いて開口面積を調節することで、2階の温度を調節することができる
図12 床断熱住宅のストーブ1台暖房
30年前の高断熱住宅ではこの方式は、上下温度差が多少残り、より快適な方式を求め、あまり普及しなかった。しかし、現在のQ1.0住宅では、熱損失が当時より半分近くになり、2階で冷やされてストーブまで戻ってくる空気の温度がそれほど低くならないことが期待される。ストーブ近辺に1坪程度の吹き抜けを設け、スノコ敷きとし、2階との対流をスムーズにする。ここに何か敷物を敷いて開口面積を調節することで、2階の温度を調節することができる

実は、基礎断熱のQ1.0住宅で床下暖房をすると、暖房負荷が小さく暖房時間も短くなり、床下地盤に吸収される熱量が無視できず、床下地盤面も全面断熱する方式を取っています。これがかなりのコスト高になり、床断熱住宅の方がかなり安くできると思われます。床下の水道管などの凍結を防ぐために、設備まわりは全て内側で基礎断熱をして、その他は玄関部も含め床断熱とします。

この方式で、まずまずの暖房環境が実現すれば、とても簡単にQ1.0住宅が実現することとなります。これは歴史を繰り返しているのではなく、建物の飛躍的な性能向上を実現した結果で、過去の経験を踏まえ大きな進歩が実現するのだと考えています。