寒冷地ならではの省エネ住宅の形とは?

太陽光発電に大きく依存した経産省ZEHは、寒冷地には向いていないかもしれません。かといって寒冷地こそ暖房費の負担は大きく、エネルギーを意識せずに家を設計することは許されませんよね。

ドイツでは、必ず守らなければならない省エネ基準(EnEV)があり、さらに復興金融公庫(kfW)がより省エネな住宅への優遇を行っています(図6)。kfW40では1次エネルギー60%削減が求められており、その上で太陽光発電を載せてゼロエネにしたものがkfW40Plusとなっています。断熱と設備による省エネが徹底しているため、kfW40Plusで必要な太陽光発電の容量はごく小さくなります。またムリにゼロエネのkfW40Plusにしなくても、kfW40で十分な優遇を受けることが可能です。

図6 寒冷地の高性能住宅に太陽光発電は必要?
積雪の多い寒冷地においては、冬の発電量が限られる太陽光発電だけでなく、外皮と高効率設備により冬の1次エネルギー需要を削減する手法も重要になります。札幌版次世代住宅では、外皮と高効率設備で熱ロスとエネルギー消費の大幅削減を目標にしています。

札幌市では「札幌版次世代住宅」として、外皮の断熱性と高効率設備により、建物の熱ロスとエネルギー消費を徹底的に削減した省エネ住宅を策定し、レベルに応じて補助金を出しています。太陽光発電を載せる必要がないため、積雪が多い物件でも受けられやすいものになっています。札幌市限定の施策ですが、他の寒冷・多雪地帯では参考になる制度ではないでしょうか。

お手軽UA値・1次エネ削減が建物をおかしくする?

競争が激しくなる中であまりコストをかけずに断熱や省エネ性能を上げようとする業者が増え、住宅の形や魅力を損なっているのではという懸念も広がっています。図7に示すように建物を真四角にして細かく区切り、暖房範囲を小さくしてしまえば断熱レベルを替えずに1次エネルギー量を削減することが可能です。しかし開放的なプランがほしい場合、こうしたゼロエネのための行き過ぎたやり方は、住宅本来の価値を損なってしまう場合もあります。

図7 断熱性能をあまり上げなくても暖房はお手軽に省エネに?
暖房の消費エネルギー削減には、外皮性能の強化がもっとも有効です。一方で、建物の形状を真四角にして外皮面積を削減し、さらに吹き抜けをなくして暖房範囲を削減するだけでも、暖房1次エネルギーを大幅に減らすことが可能です。お手軽な省エネ手法とはいえますが、住宅がみな真四角になり内部空間が細切れになっていくのも寂しい感じがします。

住宅のゼロ・エネルギー化は、快適・健康な住宅に末永く安心して住むことを可能にする、素晴らしいことです。しかし、家はエネルギーのためだけに建てるものでもありません。日々の暮らしを快適にするために、幅広い要素を考えながら家族みんなが幸せに暮らせる家を考えていきたいものですね。

 
室内を細かく間仕切ることで、ちゃんと暖房する「主たる居室」の床面積を小さくしてしまえば、外皮の仕様を上げることなしに、断熱性能UA値や1次エネルギー消費量の数字をよく見せることが可能です。しかしこれでは室内は閉鎖的になり、内部の温度ムラが大きくなるばかりでなく、空間の魅力も損なわれてしまいます。外皮の断熱性能をしっかり確保することが、建物本来の魅力を損なうことなく快適で省エネな家を確保する王道なのです。

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※次回のテーマは<冬の快適性を図る指標「PMV」を理解しよう!>です。

【バックナンバー】
vol.001/断熱・気密の次の注目ポイント!蓄熱大研究
vol.002/暖房の歴史と科学
vol.003/太陽エネルギー活用、そのファイナルアンサーは?
vol.004/「湯水のごとく」なんてとんでもない!給湯こそ省エネ・健康のカギ
vol.005/私たちの家のミライ
vol.006/窓の進化
vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
vol.008/冬のいごこちを考える
vol.009/電力自由化! 電気の歴史を振り返ってみよう
vol.010/ゼロ・エネルギー住宅ZEHってすごい家?
vol.011/冷房を真面目に考えよう
vol.012/ゼロ・エネルギーハウスをもう一度考える

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