ヨーロッパのZEHは断熱重視

ヨーロッパでもZEHは大きな課題であり、EUは全加盟国で2021年までに全ての新築建築のZEH化を求めています。ただしその詳細は各国に任されていて、環境先進国として評判の高いドイツでは、まず住宅のエネルギー消費7割を占める暖房の省エネが徹底的に進められてきました。省エネ基準(EnEV)や住宅ローン(KfW)により高い断熱水準が求められ、有名なパッシブハウス基準では、年間の床面積1㎡あたりの熱負荷を15kWh以下に、断熱はUA値0.15程度にまで強化されています。

日本の温暖地ZEHの計算結果から推定すると、年間の床面積あたり熱負荷は35kWh程度です。意外と差が小さいように感じますが、ドイツの数字は24時間全館空調を前提としたものです。強力な断熱・気密と相まって圧倒的に快適な温熱環境を、より寒冷な気候にもかかわらず半分以下の熱負荷で実現しているのです。

先日、25年前に建てられた初代のパッシブハウスの見学会がありましたが、丁寧な設計・施工により性能の劣化はほとんどなかったと報告されていました(図7)。まさに人の生活を支え社会に貢献し続ける、良質な住宅ストックといえるでしょう。

図7 独パッシブハウスの実績と未来
図7 独パッシブハウスの実績と未来
1991年に建てられた第一号のパッシブハウスは、現在もほとんど性能劣化することなく超断熱による負荷削減と住環境改善を図れることを証明しています。断熱技術が一段落する中、1次エネ消費量の削減と再生可能エネルギーの最大化を目指し、新たな定義として「Plus」「Premium」が最近になって定義されました。ドイツの冬の気候を考慮し、暖房の徹底省エネとともに夏期の日射エネルギーの貯蔵が大きなテーマです。

究極のZEHに求められるもの

ドイツでは断熱競争は一段落したためか、最近では1次エネルギー削減と再生可能エネルギー活用が大きなテーマになっています。ヒートポンプを中心とした高効率設備による1次エネルギー削減と、太陽光発電などによる再生可能エネルギーの導入が促進されています。

ドイツでリアルZEH実現の大きな課題となっているのは、冬の日射量の不足です。冬に太陽光発電が期待できないため、夏の太陽エネルギーを活かし「季節をまたいだエネルギー貯蔵」の研究開発が熱心に行われています。このため、冬期の徹底した省エネ化と併せて、夏期にもできる限り再生可能エネルギーを生み出すことが求められているのです。

冬でも日射に恵まれた地域が多い日本は、ドイツよりZEH化は容易と言えますが、ドイツは気候の困難を克服する高い要求レベルを設定し、メーカーや設計者が力をあわせて解決していく体制ができているようです。パッシブハウスの要求する断熱水準も、25年前にはバカげていると相手にされなかったと聞いています。高い目標をかかげ時間をかけて解決していく姿勢から学ぶものはあると思います。

次のページ そもそもゼロエネは何のため?