玄関からアプローチ

北海道旭川市の郊外、水田と森がパッチワークを描く桜岡に建築家の高橋克己さんの住まいはある。ここを住処とすることに決めた理由を高橋さんは、「この地域で数件の家づくりに携わり、通うほどに独特の空気感と景観、住まう人の豊かな個性にひかれました」と話す。

770坪の土地に建てた「必要最小限」の住まいの広さは、26坪。建物は、高橋さんが設計を手がける家の多くがそうであるように、木がふんだんに使われている。「新築時に建物と一緒に庭の基盤だけを準備し、夫婦でゆっくりと手を加えているんですよ」。その言葉どおり、はじめは広い敷地にまばらだった草木が、今は家を覆い隠さんばかりに豊かに茂って、高橋さん夫妻の暮らしをかたちづくっている。

桜岡の家の外観
新築して7年目頃の高橋さんの家。目標は「木を組み蔦をはわせ、緑のトンネルをつくること」
桜岡の家の緑豊かな外観
それから1年半後。夏の盛りには草木が生い茂り、思い描いていたとおりの緑豊かな住まいに

家づくりに際しては、園芸家で植物が大好きな奥さんが植栽計画を練り、DIYが得意な高橋さんがアプローチや外構、堆肥ピットを自作した。森に縁どられた庭に植えられているのは、この土地に自生する山野草、景観に馴染む宿根草や樹木。なかには、奥さんが近隣で種を採取し、苗から育てた植栽もあるが、いずれもこの土地にもともと生えていたかのように、ナチュラルにレイアウトされている。

緑あふれるアプローチ
静と動が溶け合う庭には、高橋さんがDIYで仕上げたアプローチや外構がさりげなく配されている

室内に目を転じると、緑色を帯びた光が満ちるリビング・ダイニングは、窓の向こうの景観と溶け合って、無限の広がりを生み出している。「僕らにとって、庭も大切なわが家です。草木が育つほどに、12畳のリビング・ダイニングの居心地も良くなってきています」。  

夫婦2人で庭のメンテナンスを行い、季節の花や緑を摘んで住まいを彩る。庭で収穫した野菜やベリーは、食卓をにぎわせる。庭の四季と一体化した小さな住まいでの暮らしは、高橋さん夫妻に大きな楽しみと喜びを与えているようだ。住まいに隣接する場所にキッチンガーデン、裏庭では森の再生を手掛ける計画も現在進行中。緑に寄り添う暮らしは、大地に根を張り、枝葉を広げながら育ち続けている。

庭とつながるLDK
緑を帯びた光が満ちるリビング・ダイニング。夫婦と愛猫の日常は、屋根のない大きな緑の部屋のような庭と板張りの小さな家を舞台に、ゆるやかに紡がれている
上から見たダイニング
庭で生まれた自然の恵みを、日々の暮らしの彩りに。丁寧な暮らしぶりがうかがえる
キッチン
よく使うものは見せる収納に。天井には、現しの構造材を生かしたザル置き場を

玄関からダイニング
玄関に入って左手にLDKなどパブリックな空間、右手に書斎や寝室等がある2階への動線などプライベートな空間を配置した
小さな薪ストーブ
玄関は、靴を脱いで飛び石の上を歩くユニークなスタイル。薪ストーブは主暖房ではないが、家が小さいためこのサイズでも家中の暖房が可能

書斎
書斎兼仕事部屋を抜けて、2階のプライベート空間へ
カフェのようなフリースペース
2階のフリースペースは、カフェのような居心地の良さ。幅1.8mの廊下のような空間に、裏の森を望む開口を設けた

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暮らしを楽しむための家 〜高橋 克己

LDKから庭を望む

プランニングで気にかけたのは、「そこでどんな風に過ごしたいか」ということばかり。 周りの風景に溶け込む外観にすること。家にいながらキャンプをしているように景色を楽しめること。カフェにいるような落ち着いたリビングがあること。シンプルで片付けやすい家にすること。極力光熱費やメンテナンス費をかけない家にすること。庭も部屋の一部のように感じられる大きな窓を設けること。将来家族が増えても柔軟に部屋の交換ができること…。今思い出しても、楽しみながらつくっていたように思います。

この家に暮らしはじめて、僕たちには「趣味」が生まれました。それは、暮らしに応じて手づくり収納を毎年のように増やすこと。発案は大体妻がして、僕がつくります。今年は前から気になっていた野菜を干すザルをしまう棚や、かさばるアウトドア用品を片づける棚などを製作できて清々しい気分を味わっています。そうやって日々工夫しながら、時間をかけて成熟させているわが家をお客さんに見せるのが、僕たちの楽しみでもあるのです。

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■建築DATA
旭川市
家族構成/夫婦40代・30代
構造規模/木造(新在来工法)・2階建て
延床面積/87.97㎡(約26坪)
■工事期間 平成20年10月〜平成21年3月(約6ヵ月)
■設計/桜岡設計事務所 、施工/(株)芦野組