体からの放熱ルートは全部で5つ
健康の確保は、住宅が満たすべき最低限レベルです。次により上のレベルである、「快適」な温熱環境を考えてみることにしましょう。これは結構ややこしい問題です。図4をご覧ください。
まず、人体の熱の捨て方を整理しておきましょう。これは主に5つのルートがあります。このうち「発汗」「呼吸」によるものは人体側で調整が効くので、高温環境下で放熱量を増やすのに有効です。人類は特に発汗による放熱能力が強力で、だから夏の炎天下でもマラソンができるのですが、冬の室内では脇役にとどまります。床に直接接する足などからの「伝導」もありますが、全体に占める割合はごく小さいものです。
冬の放熱は「対流」と「放射」がメイン
冬の室内で支配的なのは、体(着衣)表面からの「対流」と「放射」による放熱です。このうち対流は周りの空気との熱のやり取りなので、イメージしやすいでしょう。理解しにくいのは放射で、周辺の壁・天井との遠赤外線による直接的な熱のやり取りを表しています。絶対ゼロ度でないかぎり、物体は遠赤外線を放出しています。サーモカメラはこの遠赤外線の強弱を温度の高低に換算して表示しているのです。
まとめると、対流は周りの空気温度、放射は周辺物体の表面温度(放射温度)によってほぼ決まります。冬期の温熱環境では、空気温度と表面温度、両方を整える必要があるのです。
いごこちを決めるのは2+4の6要素
その温熱環境が快適かどうかは、「人間」の2要素と「周辺環境」の4要素によってほぼ決まります。まず人間の活動に応じて、放熱すべき「代謝量」が決まります。次に着衣量に応じて、皮膚表面温度から着衣表面温度が決まります。この着衣表面温度と周辺環境の間で、熱のやり取りが行われることになります。
代謝量メット値が放熱ノルマを決める
前述のとおり最も大事なことは、体内で生まれる代謝熱量と体表面からの放熱量がバランスしていることです。そのため、まず代謝量を把握することが肝心です。人間は活動の程度に応じて代謝量が増加するため、安静時を1とした「メット」値で代謝率を表すのが一般的です。図5に、活動量メットに応じた日本人の一般的な代謝量を示しました。10メットに相当するマラソンをすると1000Wもの代謝熱が発生するので、発汗や呼吸による強力な放熱が不可欠になります。
家の中に居る時は、睡眠時の0.7メット(70W)から料理の1.8メット(180W)程度ですので、軽いデスクワーク程度の1.1メット(110W)を想定するのが一般的です。この程度の代謝熱であれば、対流と放射で十分に放熱が可能です。
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