事務所

札幌市内の閑静な住宅街の一角、子どもたちの元気な声が響く公園に隣接して建つ、シンプルな四角い住宅。これが建築家の阿部直人さんの事務所兼自邸「白箱の家」だ。外観はほぼスクエアの敷地に対して、スクエアの白いBOXを形成したシンプルな構成。ガルバリウム鋼板で形づくられたファサードは、古くからの街並みに馴染むよう配慮したという。

白箱の家外観
北側にある公園から見た外観。リビング吹き抜けの大開口部が強調された、特徴のあるデザイン

LDKに足を踏み入れると、まずその上下左右でバランスよくデザインされた空間の立体感に目を奪われる。リビングの上部の天井高は7m近く。スリット状に設けた吹き抜けからは、早朝から日没まで安定した柔らかい自然光が射し込む。

外の景観の取り込み方にも、建築家ならではの手法が見て取れる。「白箱の家」では、階段に沿って大きな窓を設けたことで、家の北側にある公園が借景として楽しめ、しかも札幌市内の山々を望むこともできる。一方で共同住宅が隣接している南側は、プライバシーの確保を考慮しつつ、光を採り込めるよう設計されている。

「開口部はすべて、風の抜けや外の気配を感じられるように意識して配置しましたが、暮らしてみると期待どおり、夏場でも気持ちのいい風が室内に入り込んで、とても快適に過ごすことができています」と阿部さん。都市部であっても、敷地の周囲の環境を最大限に住まいに取り込む視点と設計力は、建築家ならではだろう。

ダイナミックな階段と吹き抜け
階段に隣接して設けた造作サッシの大きな窓の外には、公園の木々や空が広がる
大きな窓のある2階
公園が望めるオーダーメイドの大きな窓サッシは高さ3.2m。敷地条件を考え、採光や通風を検討してデザインされた2階の開口部は、暮らしと周辺環境を自然につなぐ

外観は真四角のBOX型。そのシンプルさからは想像できないような、複雑なかたちの内部空間を、阿部さんは意識的に設計したという。その言葉どおり、1階のパブリックスペースも床や天井の高低差や、視線の抜け方などが実に変化に富んでいる。低くこもれる空間と高く開放感のある空間に、風の抜け、柔らかい光や風景を織り交ぜた「白箱の家」は、建築家の自邸らしい居心地のいい暮らしの「場」となった。

絵画のように切り取られた景色を楽しめるリビング
絵画のように切り取られた景色を楽しめるリビングは、家族みんなでくつろげる落ち着いた空間に
ダイニング・キッチン
キッチンは、白色を基調としたオープンな対面式。一段下がったリビングからの視線は、上部への抜けも感じさせる
子ども室
それぞれの好みのデザインや色を反映させた子ども室。テイストの振り幅が大きく表現が豊かなのも、建築家の自邸ならでは

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事務所を兼ねた住宅としての工夫 〜阿部 直人

設計事務所

「白箱の家」は、アトリエ兼自宅としてつくった住宅です。そのため、住居であるプライベートスペースとアトリエであるパブリックスペースを、玄関で2方向に分離。打ち合わせの部屋はスキップフロアにして、床レベルを少し上にあげることで、空間としての機能の違いを感じさせています。ただ、玄関からLDKへと続く廊下にはスリットを設け、人の気配や、アトリエを介して外の風景を感じられるよう、つながりも意識しました

この家は、クライアントにとってはご自身の家づくりのモデルにもなる空間です。そのため、床材や壁材、天井材の素材や色を各所で変えて、実際のサンプルのように見てもらえるような仕様としました。例えば壁材は、漆喰塗装、EP塗装、クロス、構造材素地と、さまざまな質感や雰囲気を確かめていただけます。

また、半地下や中2階などの段差を多用したのにも、内装材の仕様と同じような目的があります。図面ではなかなかわかりにくく、馴染みも薄いこういったスペースのつくりを体感してもらうことで、よりよい家づくりの提案につながっていると感じています。

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■建築DATA
札幌市南区
家族構成/夫婦50代・40代、子ども2人 
構造規模/木造(在来工法)・2階建て
延床面積/108.61㎡(約33坪)
■工事期間 平成27年9月〜平成28年2月(約5ヵ月)
■設計/一級建築士事務所Atelier Casa 、施工/池端住宅建設(株)