リノベーションといえば、空間も性能もガラリと一新するのが一般的。ところがAさんの考えは違いました。新しさや快適性よりも、古き良きモノの価値を最大限に尊重。ずっと以前からそうであったかのように、年月を感じる穏やかな空間へと再生しています。
住まいは築59年の木造平屋建て。寒さや古さの不具合も受け入れて暮らしてきましたが、雨漏りを機にリノベーションを決断します。
依頼したのは、住まい手に寄り添い希望を形にするガルボ空間工房。愛着のあるわが家だからこそセルフビルドをしてみたいというAさんの夢も、最良の形で実現してくれました。床塗装や一部の塗り壁などを自ら仕上げ、さらに既存住宅の古材の利用方法や保管していた古道具の活用にも積極的に関わりました。
過去に増築した部分を解体し、元来あった建物側を残す減築プランで再生。3間続きだった和室のうち2室分は広いリビングにつくり替えましたが、基本的な間取りや位置関係はあまり変えていません。むしろ建物が見せる自然な表情と趣を大事にし、断熱改修についても意匠や雰囲気を損なうまでの工事はしませんでした。自然に寄り添い、自然に還すことのできる生きた建物であることを優先して、リノベーションを行いました。
古いものの価値を尊重すること。ありのままの姿で愛おしむこと。負担をかけず自然に還る家であること…。そんな住まい手の要望に、つくり手も最大限応えました。古さゆえの制約も少なくない中で、悩みつつも楽しみながらお互い納得できる着地点を模索。時には躯体の状態に合わせてゆっくりと、時には一つひとつ手作業で、このリノベーションは進められました。
「経年変化を見届けるのが楽しい」というAさんの住まいには、長い歴史を生きてきた古道具や解体した家の古材が、実にさまざまなアイデアで再利用されています。例えば、玄関には大きな蔵戸を飾り、保管していた古材を式台として活用。古い木製デスクは洗面台に、解体した家の廊下は新しい家のトイレ床板に設えました。さらには庭道具や大工道具さえも、インテリアの一部にリメイク。しかも、それらは決してピカピカに磨いたり傷や穴を隠したりすることなく、経年美の風貌そのままで活かしているのがAさんのこだわりです。
「何十年経っても木やモノは生きている、と心から実感しています。だからこそ簡単に解体してほしくない。もっと古さに対してポジティブに考えてもらえたら」。Aさんの言葉には、古き良きモノや暮らしに対する愛情があふれていました。