根強い人気の北欧デザインの家具やインテリアですが、いざ自宅に取り入れようとすると、アイテム選びやコーディネートに悩むことも。

そこで今回は北欧家具を取り扱うCONNECT代表の髙木智仁さんに、北欧家具・インテリアの魅力や、自宅をコーディネートする際のポイントなどについて教えていただきました。

髙木 智仁 Takagi Tomohito

1977年香川県生まれ。ヤマギワ株式会社を退社した後、2007年より北欧のインテリアアイテムや雑貨を中心に販売するCONNECTを立ち上げ、“シンプルで心地よい暮らし”を提案。現在は地元・丸亀で空き家の利活用などの取り組みにも携わっている。2024年に札幌市東区北9条に札幌ショールームをオープン

Q1 アイテム選びのポイントは?

A1 まずは「照明」から選ぶのがおすすめです。

部屋の雰囲気は「照明」で大きく変わる

家で使う家具や照明のすべてにこだわれるのが理想ですが、費用的に難しいこともあるでしょう。お金のかけどころに優先順位をつけるとしたら、私がまずおすすめするのは「照明」です。

ルイスポールセンに代表されるように、北欧デザインの照明器具にはデザインと機能性を兼ね備えた優れたプロダクトが数多くあります。これは賃貸であっても有効で、リフォームやリノベーションをしなくても、日中は照明そのもののデザイン、夜は光の当て方で、空間の印象を大きく変えることができます。

良い照明を選び、適切に配置する。これだけでもコストパフォーマンス良く、北欧らしい心地よい空間をつくることができます。

床や階段と同じ色味の木の家具にグレーのソファを用いて空間全体をシンプルなトーンでまとめています(写真・空間コーディネート CONNECT)
床や階段と同じ色味の木の家具にグレーのソファを用いて、空間全体をシンプルなトーンでまとめています(写真・空間コーディネート CONNECT)

中でも重要なのが、普段から家族で過ごす時間が長いダイニングやリビングの照明選びです。特にリビングの照明に関しては、誤解されている方が多いように感じます。

リビングの照明というと「部屋全体を照らす機能」を求めがちですが、快適に暮らすためには実は「壁面を照らす明かり」をどのように配置するのかが鍵となります。

「フロアライト」や「テーブルライト」で明かりをプラス

部屋の広さにもよりますが「部屋全体を照らす明かり」の場合、室内の中心は明るくなるものの、周囲の壁までは十分に光が届きません。そこで取り入れたいのが「フロアライト」や「テーブルライト」です。

リビングの中心に付けたペンダントライトの明るさは、一般的にはソファに座って本やスマホを読むには不十分ですが、フロアライトやテーブルライトがあればその明かり不足が解消できます。

ペンダントライトは2灯あるとテーブルの天面の端まで均一に照らされて、光が広がります。写真・空間コーディネート CONNECT)
ペンダントライトは2灯あるとテーブルの天面の端まで均一に照らされて、光が広がります(写真・空間コーディネート CONNECT)

手元を照らす明かりは、同時に近くの壁面を照らします。壁面がぼんやりと明るくなると陰影によって視覚的な広がりが生まれ、空間に広さや奥行きが感じられます。リビングはリラックスする空間。夜間にもかかわらず天井から強い光を浴びると、かえって活動的になって落ち着かない場所になってしまいます。

最近のリビングは、天井から室内を照らすペンダントライトやダウンライトに、フロアライトやテーブルライトを組み合わせる照明計画がスタンダードになりつつあります。

少々値が張っても、お気に入りの「照明」を選ぶと、住空間の質がぐっと上がって、インテリア性と機能性の両面でお金をかけただけの効果と満足度が得られると思います。

デザインの異なる3つの照明がバランスよく配置されたリビング。昼と夜とで違う雰囲気を楽しめそうです。(写真 菊池佳晴建築設計事務所)
デザインの異なる3つの照明がバランスよく配置されたリビング。昼と夜とで違う雰囲気を楽しめそうです(写真 菊池佳晴建築設計事務所)
北欧デザインの家具や照明は、グレー色で仕上げた空間との相性も◎。都会的な洗練された印象です(写真   エープラス建築設計)
北欧デザインの家具や照明は、グレー色で仕上げた空間との相性も◎。都会的な洗練された印象です(写真 エープラス建築設計)

Q2 色選び・色合わせのポイントは?

A2 好きな色から少しずつ取り入れること。

「色」が光を生かし、心地よさを高める

北欧のインテリアにおいて「色」は、光を生かして心地よさを高める役割があります。空間に広がりと明るさをもたらす白やベージュ、グレーなどのベースカラーに、自然を感じさせる青や緑、温かみのあるピンクや黄などをアクセントにしたシンプルでバランスの取れた色使いが、北欧らしさを演出します。

ゴールドカラーでツヤ感のあるペンダントライトは、黄色みが強い木素材と合わせると空間の魅力を引き立てるアクセントに(写真 オーブルホーム)
ゴールドカラーでツヤ感のあるペンダントライトは、黄色みが強い木素材と合わせると空間の魅力を引き立てるアクセントに(写真 オーブルホーム)

色選びの第一歩は「好きな色」を見つけること。すぐにピンとこない方は、よく着る服やお気に入りの車、好きな写真など身近な持ち物に注目すると、自分が好む色が見つかりやすいです。

とはいえ、いきなり壁や家具などに大胆に色を取り入れるのはハードルが高いかもしれません。最初は北欧デザインのクッションやフラワーベース、アートパネルなど、価格が手頃で入れ替えがしやすいアイテムから好きな色を取り入れてみるのがおすすめです。

北欧テイストは内装やインテリアの色でも表現可能。品のある配色のコントラストが目を引くコーディネートです(写真 アクト建築工房)
北欧テイストは内装やインテリアの色でも表現可能。品のある配色のコントラストが目を引くコーディネートです(写真 アクト建築工房)

アイテム選びは 「色の仲間」をつくる意識で

色を生かしたコーディネートのコツは「色の仲間をつくる」ことです。好みの色の同系色を意識的に選ぶと失敗が少ないでしょう。インテリアで考えると難しいかもしれませんが、「お洋服のコーディネートと同じ」と思えばもう少し気楽に考えられるかもしれないですね。

左:淡いグレーが空間をまとめるキーカラーのリビングに、ラグの青が差し色になって空間に奥行きを生んでいます(写真 弘田亨一設計事務所)
右:北欧のインテリアで好んで使われるスモーキーカラー。このお宅はスモーキーな青が絶妙なアクセントになっていますね(写真 アクト建築工房)
左:淡いグレーが空間をまとめるキーカラーのリビングに、ラグの青が差し色になって空間に奥行きを生んでいます(写真 弘田亨一設計事務所)
右:北欧のインテリアで好んで使われるスモーキーカラー。このお宅はスモーキーな青が絶妙なアクセントになっていますね(写真 アクト建築工房)

小さめのディスプレイアイテムは、額装された絵画のように「フレームで囲む」とまとまって見えやすくなります。例えばオープンな収納棚は、それ自体がフレームの役割を果たします。ソファやラグなど好きな色をまとったキーアイテムに合わせて、少しずつ「色の仲間」をつくっていくのが手堅い戦略です。

メインに黄、サブに赤を使い、青をアクセントにした2色+1色のセオリーに則った配色で、カラフルでも絶妙なバランスのLDK(写真 ミズイロアーキテクツ)
メインに黄、サブに赤を使い、青をアクセントにした2色+1色のセオリーに則った配色で、カラフルでも絶妙なバランスのLDK(写真 ミズイロアーキテクツ)

Q3 「北欧ビンテージ」の魅力は?

A3 時代を感じさせない造形と、こなれた風合い。

真新しい空間に「安心感」をもたらす存在

いわゆる「北欧ビンテージ家具」の多くは、「デンマーク」の家具です。国として小さく、独自の産業を育てる必要があったデンマークは、1920~30年代に国の施策としてデザインを重視する方針を打ち出し、第二次世界大戦後の新しい暮らしをつくる動きの中で、デンマーク王立アカデミーに家具科を設置。1950~60年代には世界的に有名なデザイナーたちが次々と登場したという歴史的な背景があります。

デンマークのビンテージ家具の特徴は、腕の良い職人の手仕事による高い品質と、今では手に入らなくなった良質なチーク材を使っている点。その素材感や風合い、時代を感じさせない造形は、住空間に個性を与えてくれます。

ただその分主張がありますし、今の主流であるナチュラルで白っぽい空間とチーク材の色味のコーディネートは難しいと感じる方もいるでしょう。

エクステンションテーブルは、北欧ビンテージ家具の中でも人気。補助天板の有無で大きくも小さくもできる可変性が魅力です(写真 堀尾浩建築設計事務所)
エクステンションテーブルは、北欧ビンテージ家具の中でも人気。補助天板の有無で大きくも小さくもできる可変性が魅力です(写真 堀尾浩建築設計事務所)

その場合は「色」と同様に、北欧ビンテージの陶器やフラワーベース、小さなトライバルラグなどのアイテムを少し取り入れてみてはいかがでしょう。ビンテージのアイテムは、年月を経ることで表面に傷や色あせが生じ、独特のテクスチャーが生まれます。

この「こなれ感」は空間に「安心感」をもたらします。ビンテージの風合いが、真新しい空間に温かみを与えてくれるでしょう。新品の北欧家具でも、孫やその先の世代まで使える品質の高さは変わりません。「未来のビンテージ家具を大切に育てる」という試みも面白いかもしれません。

ビンテージ家具の手仕事の温かみや経年変化特有の素材感が、空間に心地よさと安心感を与えます(写真 さくま建築設計事務所)
ビンテージ家具の手仕事の温かみや経年変化特有の素材感が、空間に心地よさと安心感を与えます(写真 さくま建築設計事務所)

Q4 理想に近づけるために必要なことは?

A4 家の設計の前に「ダイニングテーブル」を決めましょう。

具体的なアイテムが、暮らしのイメージを広げる

北欧の暮らし方から学べることはたくさんあります。中でも大切なのは「効率の良さ」ではなく「自分にとっての心地よさ」を軸に考えることです。

僕が知る限り、北欧の人たちはまず「どんな暮らしをしたいのか?」を考えます。そして、それを実現するために必要な家具やインテリアを選び、家の設計へとつなげていく。この順番がとても重要です。

静寂を楽しむためにやわらかな光を放つフロアライトを中心にレイアウト。床座の日本文化と北欧家具を融合させた新たな提案です(写真・空間コーディネート CONNECT)
静寂を楽しむためにやわらかな光を放つフロアライトを中心にレイアウト。床座の日本文化と北欧家具を融合させた新たな提案です(写真・空間コーディネート CONNECT)

僕が提案するのは「家の設計の前にダイニングテーブルを決めること」です。家具屋なので「どうせテーブルを売りたいんでしょう」と思われがちですが(笑)そういうつもりはなく、室内に置きたい家具を念頭にアウトラインを決めていくほうが順序として自然だと思うのです。

この「テーブルセットを中心にした暮らし」のイメージがあれば、それに合った間取りが検討でき、本当に望んでいた住まいに近づくでしょう。

室内に置きたい家具を念頭に設計することで、ライフスタイルに合った間取りが検討しやすくなることも。リビングは、大きなソファの代わりに一人掛けのラウンジチェアを2脚置く、というのも良いアイデア(写真 アクト建築工房)
室内に置きたい家具を念頭に設計することで、ライフスタイルに合った間取りが検討しやすくなることも。リビングは、大きなソファの代わりに一人掛けのラウンジチェアを2脚置く、というのも良いアイデア(写真 アクト建築工房)

北欧デザインの家具や照明は決して手が届きやすい価格ではありませんが、世代を超えて使うことができる高い品質は確かです。中には「自分にはもったいない」とおっしゃるお客様もいますが、毎日使うものだからこそ、少し良いものを選ぶ。そうすることで暮らしの質がぐっと上がります。

氾濫する情報の中で「何を選ぶのか?」ではなく、「なぜ、それを選ぶのか?」。この視点を持つことで、あなたらしい理想の住まいが実現できるのではないでしょうか。

取材協力 CONNECT
https://www.connect-d.com