東京で精力的に仕事に取り組んでいるFさんのパワーの源は、北海道で楽しむスキー。シーズン中、時間をつくっては月に何度もニセコやルスツなどに通っていました。「もっと気軽に行き来できるよう、交通アクセスがよく、自然環境にも恵まれている札幌に第2の生活拠点を持ちたい」と、Fさんが考えるようになったのも自然の成り行きでした。そして、理想の地を見つけたFさんは、知人の紹介で武部建設に新築を打診。武部建設が建てた千歳市の平屋住宅を見学し「思い描いていた空間イメージ、サイズ感とぴったり合った」のが、依頼の決め手になりました。また、木と伝統的な大工の技術を大切にする武部建設の姿勢に触れ「信頼できると直感的に思った」とも語ります。

玄関ポーチと土間には、マンガン色の江別産レンガを採用。ゆとりある土間に書斎コーナーも併設し、スキーや自転車などを休日の楽しみにしているFさんのために多目的に利用できる土間空間を設えた
玄関ホールから明るさをしぼった廊下を抜けてリビングへ。目の前に広がる勾配天井のリビングが、開閉のコントロールでより一層開放的に映る

Fさんは、南側に雑木林を望む立地が生きる平屋造りの住まいを希望。冬の暮らしを豊かにし、災害時のライフラインとしても活用できる薪ストーブの設置も必須条件として挙げていました。「武部建設は薪ストーブを採用した家づくりの実績も多く、その点でも心強かった」と言います。また長く心地よく住まうために、経年で味わいを増す自然素材、飽きのこないスタンダードなデザインを大切に、設計担当者と新築計画を練り上げました。

雑木林を望む横長の開口を設けたリビング。左手には、床高を一段下げてリビングと緩やかに分離したファイヤープレイスを設置
北国の冬を楽しむツールであり、万が一の備えにもなる薪ストーブを設置したファイヤープレイス。蓄熱性に優れた札幌軟石の床には温水パイピングも施され、足元も暖かい
開放的なくつろぎ空間に変化をつけるため、ファイヤープレイスは床高を一段下げた。踏板にはナラ材を採用。壁に設えたオーディオカウンターも造作仕様

武部建設はカラマツやスギ、ナラ、クルミ、タモなどの無垢材、センの古材など、多彩な樹種をふんだんに用い、大工や建具職人の手による造作を随所にちりばめた空間プランを提案。「経験豊かな設計担当者に委ねたことで新しい発見もあり、自分の世界が広がったように感じます。これもまた、家づくりの幸せな収穫でした」と、Fさんはプラン時を振り返って語ります。

ファイヤープレイスに設置したキャビネットはセンの古材、ソファーテーブルはクルミ材を生かして造作。ペンダント照明は中村好文デザインの「PERA」を採用
住まいの中心となるリビング・ダイニングは、スギの羽目板を張った勾配天井を採用し開放感を演出。登梁や棟木、独立柱には幕別町産カラマツ、床は幅広のナラ無垢材を用いることで、木の温もりに包まれるような空間を実現

2024年春、構想から10数年の時を経て、Fさんの札幌のわが家が完成。切妻屋根の下に広々としたリビング・ダイニングとファイヤープレイス、キッチン、水まわり、2つの個室がレイアウトされた新居は、隅々まで木の温もりで満たされています。「外で雨が降り出しても気づかず、暖房を最低にしていても、寒い室内に慣れた東京人には暑過ぎるくらい。想定以上の性能の素晴らしさも嬉しい誤算でした」。

リビング・ダイニングとキッチンは、壁とスプルースのルーバーで分離。左手奥は、洗濯室を兼ねたユーテリティと浴室。リビング入り口には、ナラ無垢材の造作回転扉を設置した
キッチンと水まわりの間には、造作カウンターのワークスペースを設けた
独立型のキッチンも機能性とすっきりとした美しさを兼ね備えた造作。突き当たりはパントリー
洗濯室を兼ねたユーテリティの洗面台も、木と札幌軟石を用いた造作仕様。洗剤やタオル類を収める収納、カウンターも造作し、使い勝手の良さを追求
リビング・ダイニングに隣接する寝室にも、カーテンの代わりに造作障子を用い、道産クルミ無垢材で造作したベッドを設置

Fさんのお気に入りは、端正な手仕事で仕上げられた造作家具がしっくりとなじむ、札幌軟石敷きのファイヤープレイス。床高を一段下げてリビングと緩やかに分離することで、心安らぐ空間に仕上がっています。「どこを眺めても、家づくりに関わったすべての人々の意識とスキルの高さを感じます。価値ある投資ができました」と、Fさんは満足そうに話してくれました。

雑木林が広がる南面に大きく開いたすっきりとした外観。外壁はカラマツ下見板張りで仕上げた