広い玄関ホール。ランドリールームに納まる引き戸は、ダイニングに向かう廊下の仕切りになる

マンションの規定による制約

賃貸暮らしだったOさんご夫妻。「親しみのある環境に家を構えたい」と考え、エリアを絞って家づくりを検討しました。「土地が空くことがほとんどないエリアなので、当初からマンションを考えていました」とOさん。まずは参考までにと足を運んだのが「KUFURAS(クフラス)」のオープンハウスでした。

予備室から東側を見る。やわらかな光と陰りが美しいOさん宅の魅力が映える光景

「KUFURAS(クフラス)」は「時間と空間に、アイデアを。」をコンセプトに、暮らしに寄り添う設計やデザインを生かした工夫で、いつまでも愛着を持ち続けられるような住まいづくりを目指すリノベーション・リフォーム・新築会社。Oさんご夫妻が訪ねた「マンション05」は、クフラスがプロデュースし、小坂裕幸建築設計事務所とコラボレーションしたマンションリノベプロジェクトです。

小坂さんの住宅作品をいつもSNSで眺めていたという奥さん。Oさんも一歩足を踏み込んだ瞬間から「余分なものが一切ない洗練された空間に目を見張りました」と魅了されたそう。リフォーム会社で働いていた経験のあるOさんご夫妻はさらに、「納まりの良さや、細部にわたるディテールへのこだわりを小坂さんから直接聞くことができて信頼感を覚えました」と振り返ります。

東からのやわらかな光に向かって進む影の美しい廊下 

およそ2年の月日を費やして、ようやく見つけたのは築42年の中古マンション。立地は理想どおりだったものの、管理会社の規定により水まわりの移動が不可能で、転がし配管が床下に通る廊下に段差を残してしまうなど、リノベーションをするには制約の多い物件でした。

不安を感じながらも実際に小坂さんとクフラスに物件を見てもらったというOさんご夫妻。クフラスが小坂さんのイメージに沿った施工が可能かを調査し、ある程度の工事金額を算出。マンションの管理組合との確認を経て、リノベーションが可能という連絡が来たといいます。「心強い言葉をもらって、この制約の中でどう変化するのだろうと楽しみになりました」と、不安が期待に変わったとOさんは話します。

制約をデザインでプラスに変換するリノベ

既存は東側に大きな窓を持つ3LDK。「東側からの心地よい光で目覚めたい」というOさんご夫妻の希望を叶え、既存リビング横の和室を寝室に。ダイニングの空間を拡張しつつ、テレビを見るなどのリビングの機能は西側の個室に移動しました。

マンションリノベは窓まわりのデザインを大きく変更できないのが難点。そこでダイニングと窓の間に仕切りを挿入し、窓辺に縁側のような空間をつくり出しました。その仕切りは裏手にまわると収納になっているほか、窓辺に設置したエアコンを隠すなど、美観維持や暮らしの機能を上げる役割を果たしています。

Oさんご夫妻の暮らし方を踏まえ、リビングを設けずにダイニングを拡張。仕切り壁を介してやわらかな光が届く穏やかな空間に
ダイニング横の寝室は建具を設けずに、カーテンでやわらかく仕切っている。Oさんご夫妻はベッドではなく布団で眠るため、日中は目的に縛られない自由な空間に
縁側に見立てた空間。仕切りの壁は収納やエアコンなどの暮らしのリアルをダイニング側から見えないようにしてくれる

クロス直張りだった内部の壁は、いくつかを駆体現しとし、白の塗り壁とのコントラストを楽しむ質感に。駆体現しの壁は、パテ処理の跡を生かしながら塗装に変化をつけて、壁面ひとつひとつの表情を豊かに魅せています。

静謐な白い壁に、光が射し込み豊かに表情を変える
パテ処理の跡を生かしながら削り方に変化をつけた壁は、それぞれ違う表情を魅せる

水まわりは既存の配置をそのままに、白とコンクリートが織りなす空間で美しさを演出。西側に位置する個室に仕切りを設けて、一方を乾燥機とファミリークローゼットを設けたランドリールームとしました。洗濯機のある水まわりからランドリールームの機能を分散させることで双方にゆとりを確保し、乾燥から収納といった洗濯の動作もスムーズに。ダイニングへと向かう段差のある廊下は、床レベルの変化がシーンのスイッチとして機能しています。

床レベルが上がった影の美しさが際立つ廊下は、水まわりと同じく塩ビシートで仕上げている 
乾かす、片付けるを完結するランドリールームは、換気を設けて風通しをよくしている。天井は既存押し入れの名残がアクセントに
こもり感がありながらも、閉塞感のないキッチンエリア。造作キッチンは食洗機以外に取手を持たないシンプルな収納に。炊飯器や電子レンジといった電子機器は奥に配置することで、雑然としたイメージを与えない。大容量の背面収納も便利

素材そのものの質感とともに、やわらかな光と美しい影を引き出したOさんご夫妻の新居。夫婦が思い描いた理想の暮らしとデザインに、クフラスのプロデュース力と建築家ならではの創意工夫で応答し、制約をプラスに転換したマンションリノベを実現しました。

「この空間に似合うダイニングテーブルを選んでいるところです」と、笑顔で話すOさんご夫妻。やわらかな光と美しい陰影の中で、新しい時間を刻み始めます。

既存窓辺の印象を変える仕切り壁。Oさんご夫妻は近い将来、猫を家族に迎える予定で、この壁は人と猫がくつろぐ居場所としても想定している
ダイニングと程よく距離を保つ独立キッチン