8畳用は買ってはいけない?

ここまで見ただけでも、エアコンの能力や省エネ性能は、結構ややこしいことが分かります。以前は専門家の間でしか知られていなかった情報が、今では動画サイトやSNSで広く共有されるようになっています。知識が広がることは誠に素晴らしいのですが、逆に情報が多すぎて判断に困る人も多いでしょう。ここでは実製品の表をもとに、エアコンを選んでみます。

図3に、上位機・普及機・シンプル高効率機の3種類について、能力とスペックを整理してみました。  

図3 冷房定格能力別のスペックをチェックして上手に機種を選択しよう
あるメーカーの上位機・普及機・シンプル高効率機について、冷房定格能力別にスペックを整理しました。
点線は、室内機・室外機の重量による区切りとなっており、異なる冷房定格能力でもハードが共通な場合が多いことが分かります。

まず、動画でよく言われる「8畳用は買ってはいけない」理由を考えてみましょう。能力が大きいほど、室内機や室外機は大きく重くなるのが当然です。一方で、図3の上位機・普及機では、6畳用の2.2kWと8畳用の2.5kWで、室内機・室外機の重さはまったく同じなのに、価格は2.5kWの方が割高になっています。  

メーカーにとって、すべての能力について専用の室内機・室外機を用意することは現実的でありません。そのため、ハードは同じで、電気回路や制御ソフトで能力に差をつける「チューニング」が普通に行われています。ハードが同じなのに価格が高いのはコスパが悪い、というのが「8畳用は買ってはいけない」という主張につながっていると思われます。  

前述のとおり、定格能力に比べて最大能力には余裕があり、そもそも「定格能力とは何ぞや」という根本的な疑問があります。筆者としては、一番小さい6畳用の冷房定格能力2.2kWでほとんどの個室は十分であり、より広いLDKでも連続運転で使うのであればまず問題ないと考えます。大きな部屋で余裕が欲しいのであれば、室内機・室外機が01ランク大きい(重い)ハードを選べば安心です。

シンプル高効率機に注目

先ほど、省エネ性能は省エネ基準達成率100%以上の「緑マーク」がおすすめとお話ししました。図3を見ていても、上位機はおおむね100%以上を達成していますが、普及機はすべて100%未満にとどまっています。ただし、年間の目安電気料金でみると、2.2kWの上位機は1.6万円、普及機は1.9万円で、その差は3千円。しかも期間消費電力量や目安電気料金は、夏135日・冬160日の長期にわたり1日18時間というヘビーな使用を想定していることに注意が必要です。本体価格が10万円以上違うことを考えると、電気料金の削減だけでペイすることはまず不可能で、上位機を選ぶのは固有の付加機能が必要な場合に限られそうです。  

幸い、最近では付加機能が少ない「シンプル高効率機」も登場しています。本体価格差も3万円以下ですから、これならペイする可能性が出てくるため有力な選択肢になりそうです。

大能力機種は低効率で騒音も大きい

能力別に図3を見直してみると、能力が大きいほど、省エネ基準達成率が低下しており、おまけに騒音も大きくなっていることが分かります。上位機では、定格冷房能力が最小2.2kWと最大9kWで実に4倍の差がありますが、室内機・室外機の重量の差はわずかです。大能力機は、少し大きいだけのハードをフル回転させて無理にパワーや風量を絞り出しているため、効率が低下し騒音も大きくなりがちなのでおすすめできません。本当に大空間を冷暖房する必要があるのであれば、小能力機を複数台配置した方がいいでしょう。  

なお、緑・オレンジマークで表される省エネ基準達成率は能力別ですが、省エネラベルで目立つ★で表された「多段階評価」では能力に関係なく共通で、APFが5.8以上で★2.0、6.6以上で★3.0となります。そのため、小能力機ほど★が多く、大能力機ほど★が小さくなります。結果的に小能力機に誘導されるという意味で、今後は多段階評価点の★をメインで機種を選ぶのも良さそうです。  

ここまで述べてきたポイントを図4に整理したので、参考にしてください。

図4 エアコンの能力・省エネ性能のポイントを整理してみよう
各メーカーから多種多様な機種が販売されているエアコンは、どれを選んでいいのか迷ってしまいますが、
能力と省エネ性能については、いくつかのポイントを押さえておけばそれほど難しくありません。
冷房定格能力は最小の2.2kWを基本的とし、省エネ基準達成率が100%以上の緑マークで多段階評価点がなるべく高いものを選べば問題ないでしょう。

容量や効率についてより詳しい検討をしたい人は、地域や部屋の広さに応じて最適な容量を算出できる、電力中央研究所のASSTなどを参考にしてみるといいでしょう。

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